翌朝目が覚めて一気に記憶が蘇り、そして更には一緒のベッドでビルが寝ていた。
ベッドから抜け出して心の準備が出来たような出来ていないような私にビルの態度はいつも通り。
強いて言えば嬉しそうに笑う顔がいつもよりも嬉しそうに見えた事。
素敵だと思いながらも一方でドキドキする心臓を静めようと精一杯だった。


帰りのレンタカーでも家に帰ってからもビルの態度は変わらない。
身構えていた分何だか拍子抜けしてしまい、私はぐっすりと眠り込んでしまった。
旅行と言えるのか解らないけれど、持って行った荷物の片付けもまだなのに。


ハッとしていきなり起き上がったのが原因か、くらくらしてまたソファーに突っ伏す。
それが治まる頃、カラカラと窓が開く音がして洗濯物の入った籠を抱えたビルが入ってきた。
その籠の中を見ると旅行中に着ていた服が入っている。


「あ、おはよう名前。冷蔵庫にアイスティー冷えてるよ」

「ああ…うん。いただきます」

「洗濯だけはしちゃった。こっちは暑いからかあっという間に乾いたよ」


ビルの声を背中で聞きながら冷蔵庫のアイスティーをグラスに注ぐ。
乾いた喉を潤すアイスティーはいつもビルが淹れてくれる味。
空になったグラスを再びアイスティーで満たしてボトルを戻した。
洗濯物を畳むビルの向かい側に座って手を眺める。
私よりも大きな手が洋服やタオルを綺麗に畳んでいく。


「ビルって、部屋綺麗そうだね」

「え?どうして?」

「何か、そんな気がする」

「まあ、確かに片付けないと怒られたりはしたけど」


癖になったのかも、と言ってビルは畳んだタオルを重ねた。
ビルが何も言わないのは酔っ払って覚えていないのだろうか。
でもビルは私よりもお酒に強くて、あの時は私の方が飲んでいた。
だから酔っ払って覚えていないという事なら私の筈。
全て覚えているからこうして頭の中をぐるぐるしているのだけど。


そもそも、私はビルの事をどう思っているのだろう。
確かにかっこいいし素敵だとは思うけど、それは恋愛感情なんだろうか。
キスされて嫌だとは全く思わなかった。
ビルとならキスしても良いと思ったのは確か。
近くに居すぎて解らないという事もあるかもしれない。
かと言ってビルを一人置いて何処かへなんて行けないし。


「名前、難しい顔してどうしたの?」

「え?」

「何か悩み事?」

「あ…大した事じゃないよ」


大丈夫だから、と言うと安心したように笑って杖を振る。
魔法を掛けられた洗濯物と籠は勝手に元の場所へ戻っていく。
やっぱり何度見ても魔法というのは便利なものだ。


「晩ご飯、僕が作るよ。名前は休んでて」


にこっと微笑んでキッチンに立つビルを目で追い掛ける。
このまま触れようか、触れまいか、悩む。
触れたところでじゃあ自分の気持ちはとなっても困るのだけど。
それにビルは他に行く所が無いから今の関係を壊す訳にはいかない。
それならあんな事を受け入れなければ良かったのだ。
でもそれも今更後悔したところで遅いのだけど。


「ビル、やっぱり私も一緒に作るよ」


ぐちゃぐちゃなまま考えても答えは出そうにない。
それならいっそ、隣に立ってみようか。




(20130825)
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