花火大会の会場近くには屋台が出ていて、人も沢山。
皆楽しそうに笑っていたり、ひたすら食べていたり。
此処に辿り着くまでに何回か草履を飛ばしてしまったビルの青い目も今はキラキラしている。


「お花見を思い出すね」

「そうだね。お団子オマケしてくれたんだっけ。懐かしい」

「名前、僕あれ食べたい。オコノミヤキ」


二人でお好み焼きの屋台を探してビルの分を買う。
私の分は隣にあった焼きうどんを買って、座れそうな場所を探す。
混んでいるかと思ったけれど、意外と直ぐに見つかった。
周りに人も居ないし今日はもしかしたら運が良いのかもしれない。
けれど、並んで座った時、ビルの手に杖が握られているのを見つけてしまった。


「ちょっと、石を椅子に変えただけだよ」


私の視線に気付くと悪戯に笑って小声で呟く。
一応周囲を確認してみたけれど、見ている人は居なかったらしい。
早速使い慣れないお箸を使ってお好み焼きを頬張るビル。
嬉しそうだしバレてはいないしまあ良いかと思って私も割り箸を割った。


「花火は何時から?」

「19時から。まだ時間あるから屋台見て回れるよ」


そっか、と嬉しそうに笑ってまたお好み焼きを頬張る。
何だか、今日はとてもはしゃいでいて子供みたいだ。
屋台を見ているビルにカメラを向けてシャッターボタンを押す。


はぐれないように手を繋いで人混みを歩く。
ビルの手から水風船と金魚がぶら下がっている。
どちらもオマケで貰った物だ。


「もう直ぐ?」

「うん」

「日本の花火、楽しみだよ」


私の渡したデジカメを持ってまだ暗い空を見上げる。
ビル、と話し掛けようとした時、花火の音が聞こえた。
空を見上げると大きな花火が一瞬で消えていく。
そしてまた新しく上がっては消える。
途中でビルを見ると夢中でシャッターボタンを押していた。
花火の光で明るくなったり暗くなったりするビルの横顔。
私は空に向けていたデジカメをビルに向けた。


人の流れに押されるように人混みの中を歩く。
さっきまで花火を見ていたというのに今は周りは帰宅モード。
余韻に浸る事もさせてくれないみたいで少し寂しくなる。


「綺麗だった。名前、有難う」

「喜んで貰えて良かった」


ビルはあの花火が、この花火が、と次々言葉が飛び出す。
きっとビルが使ったデジカメの中身は花火で一杯なのだろう。


「あ、名前危ない」


ぐい、と繋がっている手を引かれてそのままビルの胸にぶつかる。
離れようとすると背中に回された腕に阻まれてしまう。
何事かと首を捻ると車が何台も続けて通っていく。
ビルにお礼を言おうと顔を上げるといつもと違う真剣な表情をしていた。
そして何より距離が近くて、浴衣のお陰でいつもは見えない素肌が見える。
私の口は言葉を発する事を忘れてしまったように動かない。


「名前、怪我は無い?ごめんね、車道側だった」

「…」

「名前?」

「あ、うん、大丈夫」


慌ててビルから離れようとすると、背中に回された腕に力が込められた。
そのせいで揺れた水風船と金魚が背中に何度も当たる。
あんなに周りに居た人はもう離れた所まで進んでしまったらしい。


「ビル」

「名前、抱き締めても良い?」


もう抱き締めているのに、と言おうと思ったのに、結局何も言えずに頷いた。
暑いけれど心地良くて、でも何だか落ち着かなくて、どうしたら良いのだろう。
動けなくてビルが少し体を離したと思ったのに、再び距離が縮まったのは一瞬だった。
唇が燃えるように熱い。




(20130805)
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