目を覚ますと私は見慣れた自分のベッドに寝ていた。
眠る時はソファーでビルに凭れかかっていた筈。
という事はベッドまでビルが運んでくれたのだろう。
しまった、と思いながら伸びをして時計を確認すれば夕方だった。


ベッドから抜け出してリビングへと向かう。
ソファーで本を読んでいるビルが気が付いて顔を上げた。
チリン、と風鈴が鳴って風がポニーテールを揺らす。


「おはよう」

「ん、おはよう。夕方だけど」

「よく寝てたよ」


ペットボトルの水を飲むと後ろで本を閉じる音がした。
振り返ると思ったより近くにビルが立っていて思わず後退る。
驚かせてごめん、と言うけれどきっとわざとなのだろう。


「ねえビル、出掛けようよ」

「今から?」

「うん、今日花火大会があるの」


花火大会?と首を傾げるビルの手を引いて寝室へと連れて行く。
不思議そうな顔をするビルにずっと買ったまま置いてあった袋を取る。
ガサガサと鳴るビニール袋から出てきたのは男性用の浴衣。
ビルの夏服を買いに行った時にこっそり買った物。


「これ…僕に?」

「うん。多分着れると思うけど、ビル背が高いからちょっと短いかも」
「そうなの?」

「大丈夫だと思うけど…着てみる?」


嬉しそうに笑ったビルに簡単に着方を説明する。
やってみる、と言った瞬間着ていたTシャツを脱ぎ始めた。
チラリと見えたお腹に慌ててビルに背中を向ける。
別に男の人の上半身は初めて見る訳じゃない。


「名前、これどうするの?」

「え?あ、これは、此処を引っ張って」

「難しいね」


付属の着方を見ながら着たのか、ビルは上手に着れている。
やっぱり皺が寄ってしまったりはしているけれど。
ビルに裾を持って貰って手を差し込んで整える。
帯を結んで細かい所を綺麗にして確認すると、やっぱり少し短かった。


「ビル、やっぱり背高いね」

「短い?」

「うん、少しね」


これ位かな、と指した時、ゆっくりと浴衣の裾が伸びてくる。
思わず顔を上げると杖を持ってにっこり笑っていた。
笑われてしまうから心の中でやっぱり魔法って便利だと呟く。


ビルに待って貰って急いで私も浴衣を着る。
髪の毛を上げて以前京都に行った時に買った簪をさす。


「お待たせ」

「…名前、綺麗」


一瞬驚いたように目を開いたと思ったらふんわりと笑う。
それはまるで花が咲いたみたい。
玄関で下駄と草履を出してそれを履いて外へ出る。
夕方で冷たくなってきた風が吹いて思ったより暑くはなさそうだ。


カランコロン、下駄を鳴らして歩く横で歩き辛そうなビル。
けれど楽しいらしく先程からにこにことしたまま。
駅に着いても相変わらず楽しそうで私も楽しくなる。


「浴衣、どう?」

「スカートってこんな感じかな」

「んー…どうだろう?ちょっと違う、かな」

「思ったより涼しくないね」

「あ、それはそうだね」


パタパタと手で扇ぐビルに扇子を渡すとまた楽しそうに笑う。
ビルは好奇心旺盛だから、何でも楽しそうにしてくれる。
その顔が見られるなら何だってしても良いと思う。
あれだけ仕事を必死で頑張った甲斐もあるというものだ。


電車はクーラーが効いていて快適な分、降りると暑い。
この纏わりつく生暖かさがいつも嫌だ。
同じ駅で降りる人が多いのも暑さを助長しているのかもしれない。
皆私達と同じように花火大会に行くのだろう。
改札を抜けても皆同じ方向に歩いていく。


「名前、手繋いでも良い?」

「え?」

「こんな沢山人が居る中ではぐれちゃったら僕名前を探せないよ」

「あ、そっか」

「それにね」


ビルが屈んだかと思えば転んだら恥ずかしいから、と耳元で囁いた。
少し恥ずかしそうな表情のビルが何だか可愛くて思わず笑みが零れる。
じゃあ、と手を差し出せば一回り大きな手が重ねられた。




(20130805)
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