自分を追い込むように仕事をしたのは久しぶりかもしれない。
今まで締切が重なったりした事もあってその時は徹夜なんて当たり前。
急に変更のお願いが飛び込んで来た事もあった。
けれど、こんなにも詰め込んで片っ端から仕上げていったのは久しぶり。
詰め込んだ予定の最後が終わったのを確認してパソコンの電源を落とした。


うんと背伸びをして凝り固まった首や肩を解す。
時計を見るともう直ぐ5時になろうとしている。
明るくなってきた空を窓越しに眺めた。
お腹が空いたなぁとは思うけれど作るのが面倒臭い。
それに疲れ切っている頭は何かを考える事が億劫だ。
ふらふらする頭を何とか誤魔化しながらキッチンに向かう。
何かあるかと冷蔵庫を開けるとゼリーが目に付いた。


「こんなの買ったかなぁ…まあいいや」


オレンジの絵が描かれているそれとスプーンを手にソファーに座り込む。
スプーンでゼリーを掬って口に運ぶと冷たさが心地良い。
お腹が膨れるかは別として、何も食べないよりは良い筈。
眠くてもう目がしょぼしょぼしてきたから食べたら寝よう。




いきなりの大きな声にぼんやり持ち上がった意識。
眠くて頭も意識もふわふわする中、何となく目を開けようと思った。
重たい瞼を開くとビルが驚いたような困惑したような表情を浮かべている。
眠い目を擦ってもやっぱりそこには同じ表情のビルが居た。


「名前、何で此処に居るの?」

「ん?此処?ベッドじゃないの?」

「いや、ベッドだけど」


何で慌てているのだろうとふわふわする頭で考える。
というか、どうしてビルが目の前に居るのだろう。
眠い目を擦りながら起き上がって部屋を見渡した瞬間一気に眠気が吹っ飛んだ。
此処は私の部屋ではなくて、今はビルの部屋になっている客間。
つまりは私のベッドではなく、ビルが使っているベッド。
しまったという気持ちで一杯になって私は慌ててベッドから抜け出す。


「ご、ごめんビル!」

「ううん、良いけど…吃驚したよ」

「あ、うん。いや、あの何もしてないと思うから、安心して」

「…ははは、名前、普通それ僕が言う言葉」


そう言ってベッドの上で笑い続けるビル。
よく解らないけれど、楽しいなら良かったと思う。
ボリボリと頭を掻くと笑いが収まったビルが微笑んだ。
立ち上がったビルがウンと伸びをして髪が揺れる。
ポニーテールにするのを見ていたらまたビルが笑った。


「ビル、機嫌良いね」

「んー?そう?」

「うん」

「それより、起こしちゃってごめんね。お詫びに朝ご飯僕が作るよ」


だからお風呂入ってきなよ、と私の頭を撫でてビルは出て行く。
こんな風に頭を撫でられてドキッとするなんて、そんな歳でも無いのに。


お風呂から出て戻るとテレビではアナウンサーがにこやかに笑っていた。
今日も暑くなるでしょうという言葉に何となくげんなりする。


「どうしたの?」

「うん、今日も暑くなるって」


ビルは窓の外を見てから私を見てそっか、と呟いた。
運ばれてきたスープとサラダに私の体は急に空腹を訴える。
ビルがジャムを塗ってくれたトーストもとても魅力的。
いただきますと手を合わせてトーストにかぶりついた。


カチャカチャと食器同士がぶつかる音がする。
ボーッとビルの淹れてくれた紅茶を飲みながらそれを聞く。
テレビの音と風鈴の音と満腹になった事で眠気が増してくる。
やっぱり少し寝ただけじゃ眠気は取れないらしい。


「名前、仕事は良いの?」

「うん、もう忙しいのは終わったの」

「本当?」

「本当。心配掛けてごめんね」


ビルは笑ったと思ったら直ぐにしまったという顔をした。
手を拭いて此方へ歩いてくるビルは眉が下がってしまっている。
そんなに気にしなくても良いのに。


「ごめん、僕起こしちゃって…終わったの遅かったでしょ?」

「遅かったっていうより、まあ、朝だったんだけど」


手招きをしてビルを隣に座らせる。
大丈夫だから、と言ってビルの肩に頭を乗せてそのまま瞼を閉じた。




(20130802)
20
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -