名前が仕事に追われるようになってから一週間。
いつものように家事をしてから日本語の勉強をする。
日本語は一つの言葉でも何通りも言い方があって難しい。
でも、それはそれだけ表現方法があるという事。
勉強をするのは嫌いじゃないし、日本語を覚えるのは楽しかった。
名前との会話で確かめる事が出来ないのは残念だけど。


今日も名前はいつものようにパソコンと向き合う。
外は激しい雨が降っていて風も強い。
台風が近付いているらしく、風の音がしていた。
その音は少しだけホグワーツを思い出させる。
夜に禁じられた森から聞こえてくる音。
暗い部屋でベッドに寝転がっている自分。
今でもハッキリと思い出せる。


ボーッと窓の外を見ていた視線を本へ下げるとフッと明かりが消えた。
暗くなった部屋の隅から名前のあっ、という声が聞こえる。
ルーモス、と唱えて杖に明かりを灯すと名前が此方を見ていた。
もしかしたら、名前はいつもの言葉を言うかもしれない。


「魔法って便利だね」


やっぱり、と心の中で笑っていると名前が手招きをした。
後ろを着いていって何かを取り出した名前と戻る。
カチッと音がしたと思ったらそれはキャンドルだった。


「とりあえずはこれで、かな。停電なんて参ったなぁ」

「停電?」

「うん。台風のせいで電気が止まっちゃったの」

「名前の仕事は大丈夫なの?」

「復旧するまでは無理かなぁ」


キャンドルの僅かな明かりに照らされた名前の苦笑い。
先程まで光を放っていたパソコンの画面は今は真っ黒。
復旧するまでは休憩、と言って名前は立ち上がる。


「ガスは使えるから、ご飯作ろう。何が良い?」

「名前の食べたい物で良いよ」

「うーん…暗いからなぁ」


再び杖に明かりを点けて名前の後を追う。
ガサゴソと暗闇の中で動く名前の手元を照らす。
こんな中でも迷い無く料理をする姿に此処が名前の家だと改めて思わされる。
確かに此処にずっと住んでいると解る動き。
ズキリ、と心の奥が痛んだような気がした。




食後の日課もテレビが見られないなら出来ない。
明かりはキャンドルと魔法で出したランプのみ。
最近の疲れのせいか名前の頭はゆらゆら揺れている。


「名前、眠い?」

「うん、眠いんだけど」

「ん?」

「最近ビルとゆっくり話してないから、話したいなと思って」


自然と顔が緩むのが解った。
疲れているだろうから寝て欲しいと思うけれど、嬉しいと思ってしまう。
名前と話すのはマグルや日本の事を知れるし、何より楽しい。


「日本語、どう?」

「難しいね。でも幾つか覚えたよ」

「例えば?」

「着物とか下駄とか」

「ああ、和服だね」


名前が近くから紙とペンを取り出してサラサラと着物の絵を描いた。
それがとても上手で驚いて名前を見ると気に入らないと呟きながらペンを動かす。
充分に上手だと思うけれど、名前にとってはイマイチらしい。
ペンを動かしてああでもないこうでもないと呟いている。


「名前は着ないの?」

「え?」

「着物」

「うーん…着物は暑いからねぇ」


先程描いた絵の隣に名前は新しく着物を着ている人の絵を描く。
その絵をペン先で差しながらおびがじゅばんがと言う。
解らない単語が沢山出てきたけれど頷いて話の先を促す。
とにかく着物を着るには暑くて少し苦しいらしい。
テレビで見た着物を着た人が綺麗だったから着て欲しかったのだけど。


「まあ、一応あるにはあるんだけど…涼しくなったら考えるよ」

「本当?」

「うん」

「楽しみ。それまで居られると良いなぁ」


そうだね、とにっこり笑った名前とテレビで見た着物を思い浮かべる。
見られる日が来るのが今から楽しみだ。




(20130729)
19
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -