小説を何冊か選んで戻ると名前は携帯を見ていた。
何をしているのかは解らないけれど、とても真剣な顔。
マグル学で習った物とかなり違う携帯で何をしているのだろう。
少しだけ気になってこっそりと近付いて隣に座った。
小さな画面には文字が一杯書いてあって、何かの写真もある。
名前が携帯のボタンを押す度に少しずつ画面が動いていく。
更に覗き込もうとしたらふと名前が顔を上げて此方を向いた。
「あ、選び終わった?」
「うん」
抱えた本を少しだけ持ち上げて見せると名前は声掛けてくれれば良かったのに、と笑う。
立ち上がった名前に続いて歩いて行くとあっという間に貸し出し手続きが終わってしまった。
「名前、辞書は?」
「辞書なら買った方が良いよ。本屋さん見に行こう」
「え?」
驚いている僕を置いて名前は本を入れた鞄を持ってどんどん歩いていってしまう。
慌てて追い掛けて名前の手から鞄を受け取る。
買わなくても良いと言っても笑顔で交わされてしまう。
自分にしては珍しくしつこく何度も言ってみたけれど結局本屋に辿り着いてしまった。
あんなにしつこく言っていたのに直ぐに見つけてしまう自分の目に嫌気が差す。
名前が店員と何か話しているけれど、さっぱり解らない。
「ビル、何冊かあるみたい。どれが良い?」
「ねえ名前、本当に買うの?」
「買うの。ほら選んで」
とん、と図書館の時と同じように背中を軽く押された。
何冊かある中から選んだ辞典が入った紙袋がカサカサと鳴る。
暫くは沢山本を読めるだろう、と鞄の重みで思う。
本屋から出るとむわっとした暑さが纏わりついてくる。
慣れない日本の暑さに歩くと直ぐに汗が流れ落ちていく。
「名前、暑くない?」
「暑いねぇ。あ、かき氷」
「かき…何?」
「かき氷。イギリスには無いの?」
「僕は見た事無いなぁ」
「じゃあ折角だから食べよう」
おやつの時間だし、と名前が僕の手を掴む。
思いの外冷たい手に驚きながらも握り返す。
相変わらず小さい手で、包み込むのは簡単だ。
驚いたように振り返った名前に笑顔を向けると同じようににこっと笑う。
「イチゴにメロン、レモン…ブルーハワイもある。何味が良い?」
「名前のオススメは?」
「イチゴかな」
「じゃあ、イチゴで」
注文してお金を払う時になると自然と離れる手。
ほんの少しだけ湧き起こる寂しさは気付かないフリをする。
かき氷機という名前だと教えてくれたその機械はどんどん氷を削り、器に降り積もっていく。
面白くてそれを見ていたら隣に立っている名前に笑われてしまった。
目の前に置かれたかき氷をスプーンで口に運ぶ。
向かい側では名前がどう?と言いたそうな顔をしている。
美味しいと言えばきっと安心したように嬉しそうに笑うのだろう。
それを思い出して少しだけ笑いそうになる。
「ふわふわしてる。美味しい」
「良かった」
予想通りに笑った名前に自然と笑ってしまう。
名前がかき氷にスプーンを入れるとシャク、と音がした。
(20130628)
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