ズキズキと頭が痛むのを自覚して目が覚めた。
蹲ったまま記憶を辿ってワインを飲んだ事を思い出す。
けれど、どうして自分がベッドに居るのかは思い出せない。
確かビルさんに魔法界の話を聞いていた筈なのだけど。
なんとか起き上がって寝室を出るととても良い香りがしてきた。
リビングに辿り着くとキッチンに立っていたビルさんが振り向く。
「おはよう。って言ってももう直ぐお昼だけど」
「え?」
「よく眠れた?」
頷いてから時計を見ると確かにもう直ぐ午前が終わりそうだった。
アルコールを摂取したからといってこれは何とも情けない。
顔を顰めて窓に目を向けると洗濯物がよく乾きそうな晴れだった。
後で布団を干そうとぼんやり考えていたらペットボトルが差し出される。
受け取るとビルさんは直ぐに杖を振った。
飛んでくる食器を眺めていたらビルさんが笑う。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。ごめんね」
「気にしないで」
それより食べよう、と言われてテーブルを見た。
スープの香りに食欲をそそられてお腹が鳴ってしまいそう。
向かい合って手を合わせてから、早速スープを飲んだ。
美味しい、と呟くとビルさんがにっこり笑う。
「昨日の事、どれだけ覚えてる?」
「んー…魔法界の話を聞いてたのは覚えてるんだけど」
「その後は?」
「全然覚えてないの」
そっか、と言ったビルさんは安心したようながっかりしたような顔をした。
私、もしかして何かをやらかしてしまっただろうか。
「あの、ごめんなさい」
「え?」
「私何かしちゃったかなって…ビルさんがもしかしたら」
「ビル」
「え?」
「ビルって、呼んで」
いきなりの事に驚いたけれど、とりあえず頷く。
これももしかしたら昨夜何かあったのかもしれない。
何も謝るような事はしてないと言われたけれど、気にはなる。
食べながら考えてみたけれどやっぱり思い出せなかった。
布団を干して洗濯物を干しながらも考えてみる。
寮の話をして、ハッフルパフが似合うだろうと。
そこまでは覚えているのに、暫くお酒を飲むのは辞めよう。
「手伝う?」
「あ、うん」
相変わらずバスタオルやシーツの大きな物を干してくれる。
洋服をハンガーに引っ掛けながら盗み見るといつもと変わらない姿。
「名前…って呼ばれるの、嫌?」
「え?嫌じゃないよ」
「良かった」
にこにこと笑ってまたバスタオルをパン!と広げる。
それは全て干し終わり、紅茶を飲んでいる時まで続いた。
とにかくご機嫌な様子で何か良い事でもあったのだろうか。
帰り方の手掛かりが見つかったとか、お酒が飲めたからだったりするかもしれない。
それならお酒をこれからは出してみようか。
うんうん考えていたらどうやら私は眉間に皺が寄っていたらしい。
笑い声と共に指摘されて慌てて眉間を抑えた。
「何か良い事あったの?」
「んー…うん、良い事あった、かな」
「帰る方法が見つかったとか?」
きょとんとして何度か瞬きをして首を横に振る。
違うよ、という言葉に少しだけホッとしたのは何故だろう。
(20130616)
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