蜜柑ちゃんは誰とでも仲良くなれる。
それは私との間でも言える事だった。
蜜柑ちゃんはとても良い子で好き。


「あ、翼先輩や!」


今まで蜜柑ちゃんと一緒に勉強していたのに、翼先輩を見つけると一目散に駆け寄って行く。
私はそれを眺めて、蜜柑ちゃんが戻るのを待つ。
だから、今日も同じ様に蜜柑ちゃんが戻るのを待つ事にした。


算数はどうも苦手。どうしてこうなるのかさっぱりだし、何よりもあの神野先生が恐くて仕方が無い。
けれどこの宿題もやらなければ怒られるのだ。
蜜柑ちゃんはなんとかなると言うけれど。


「どうしたチビ」

「え?」


声に顔を上げれば蜜柑ちゃんの席に翼先輩が座っていた。
翼先輩は今まで蜜柑ちゃんと居たはずなのに、そう思って見遣れば美咲先輩と楽しそうに喋っている。


「教えてやろうか」

「え?あ、あの、はい」


少しだけ目が合って、どうすれば良いのか。
翼先輩と目が合ったり喋ったりすると、どうしたら良いのかが解らなくなる。
だから、嫌いではないけど翼先輩は苦手だった。
蜜柑ちゃんと同じ位、誰とでも仲良くなれる人なのに。


「なぁ、名前さ、俺の事嫌いか?」


その声に思わず顔を上げると見える横顔。
私のテキストに何かを書きながら呟かれた言葉。
嫌いかと言われれば答えはNOだけど、だけど、翼先輩は苦手で、どうにも緊張してしまうのだ。
こういうのは、どう言い表せば良いんだろう。
国語は得意だったけれど上手く言葉が見つからない。


「嫌いか?」


今度はこちらを見て、再度問われた言葉に首を横に振った。
嫌いな訳ではないのだから、間違ってはいない。
翼先輩はにっこりと笑って、こちらに手を伸ばす。
何をされるか解らずに目を閉じる。
しかし頭に触れる暖かい感触にゆっくりと目を開けた。


「じゃあ、良かった」

「あの」

「ん?」

「ええと…」


やっぱり、言葉が上手く見つからない。
どうやって伝えたら良いのかな。
どうやったら、上手く伝わるのかな、この心の言葉。


「翼先輩は嫌いじゃないけど話しかけられたりすると緊張してどうしたら良いかわからないから苦手」


急に聞こえた声に勢い良く振り向く。
いつの間に居たのか、心読みくんが立っている。
恐る恐る翼先輩の方を見ればポカンとしていた。
しかし、ゆっくりと笑顔になって笑い出す。


「名前、そんな事気にしてたんか」

「えっ?」

「まぁ、ゆっくり慣れてくれよ」


翼先輩はニッと笑って再び私の頭を撫でた。




(20070816)
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