気まぐれに入ったビルの2階にある喫茶店。
窓際の席に座り注文した紅茶を飲みながら下を眺める。
通る人間は皆同じ様に急いで歩いていてつまらない。
この日本という国では皆時計に追われている様だ。
たまに見かけるそれとは違う人間は大方老人ばかり。


(なんとも、つまらないですね)


残っていた紅茶を流し込むと喫茶店を後にする。
ゆっくり階段を降りて先程の下の世界に出た。
やはり皆同じ様に足は急かされている様に動く。
と踵を返そうとした時、何かを目の端が捉える。
気になりそちらを向くと老人ではない、違う人間。
手に持った何かを見てはしきりに辺りを見回す。
恐らく手に持っているのは地図なのだろう。
そしてこの辺りの事は全く詳しくないのだ。


やはり気まぐれで、紳士を顔に貼り付ける。


「どうしました?」

「え?あ、あの、迷ってしまって」

「どちらへ行かれるんですか?」

「此処に行きたいんです」


そう言って彼女が見せたのはやはり地図。
けれど、そこにあった文字はいかにも胡散臭い物だった。
友達を紹介するだけで稼ぐ事が出来たら誰も働きなどしない。
見るからに純粋そうな彼女は恐らく騙されたのだろう。
確かに、騙しやすそうな外見をしているから格好の餌だ。
自分が騙すならば間違い無く彼女を選ぶだろう。


「わかりました。ご案内致します」

「本当ですか?有難う御座います!」


嬉しそうに笑った彼女はやはり騙されるタイプだと思う。
初対面で、しかも男の車に疑いも無く乗るなど有り得ない。
いっそ、このまま騙してみるのも面白いと思ったけれど、目的の場所に行ってどうなるか見届けてからでも遅くは無い。


「あ、あの、お名前教えて貰って良いですか?」

「あぁ、自己紹介がまだでしたね。僕はソロモンと言います」

「ソロモンさん…あ、私は名字名前です」


丁寧に自己紹介をした彼女は何やら考えていた様で、やっぱり外国の方なんですか?と尋ねてきたので頷いておく。
すると一気に髪の色や瞳の色など様々な事を言い出した。
この国の人間は皆聞く事は同じなのだと心の中で溜息を吐く。
表はあくまでも紳士を貼り付けたまま彼女と会話を続ける。




目的の場所に着けば彼女はまた笑って深々と頭を下げた。


「お気を付けて」


様々な意味を込めてそう告げれば彼女は首を傾ける。
予想通りの反応。これから先も大方予想するのは容易い。
首を傾けた彼女に気にするな、と告げると素直に頷く。
やはり予想通り動く彼女はなんとも面白くつまらない。
なんとなく、気になったのだけれど、やはり外れだった様だ。


(暇潰しにもなりはしませんね)


心の声なんて彼女に聞こえるはずもなく未だこちらを見たまま。


「行かないんですか?」

「あ、行きます。仕事なんで」

「仕事?」


投げかけた言葉に彼女はなんとも大きく予想外れの言葉を返した。
見た目からは想像する事が出来ない彼女は鞄から向日葵のバッチを出したのだ。
意外に、暇潰しの相手になるだろうか。


「また、何処かでお会いしましょう」


今度は暇潰しの相手をして頂きましょう。
彼女はやはり嬉しそうに笑って頷いた。




(20070730)
向日葵
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