「あ、沢田くんおはよう」
「おはよう」
少しドギマギした様子で返事した茶色の瞳を持つ彼は、皆からはダメツナだなんて呼ばれているけれど、私は誰よりも優しい沢田くんの事が大好きだった。
少しだけ前よりも逞しくなった理由は知らない。
でも、きっと優しい部分は変わっていないはず。
それと、彼女を想う沢田くんの気持ちも、変わらない。
最近、彼女が一緒に居るのをよく見かける。
それを遠くから見ているだけの私。なんて、遠い。
「名字さん、ごめん忘れてた!」
慌てて教室に入ってきた沢田くんに良いよと返事する。
今日は沢田くんと日直で、それだけで嬉しかった。
だから、日誌は私一人でも平気だったし。
なんて、本当は少しだけがっかりしてた。
そこに沢田くんが来てくれて私は本当に幸せ。
「名字さん、字綺麗だね」
「え?」
「良いなぁ。俺は字が汚いから…あ、ごめんどうでも良いよね」
「ううん、続き話して」
それから沢田くんは色々な話をしてくれた。
その所々に彼女の存在を感じて、胸が痛む。
「沢田くん、京子ちゃんの事が好きなんだね」
「えっ?なんでその事」
顔を真っ赤にして驚く沢田くんはやっぱり沢田くん。
こんなにも純粋な気持ちをぶつけて貰える幸せな京子ちゃん。
ちゃんとわかっているのに、少しだけ泣きたい気分だった。
それでも優しい沢田くんは気にしてしまうから、笑みを絶やさない。
「うん、まあ、好きっていうか…名字さん?」
茶色の瞳が大きく開かれて慌て出す沢田くん。
差し出されたハンカチはぐしゃぐしゃだったけど、ごめんねと謝る沢田くんからそれを受け取った。
結局堪えきれず重力に従順に落下して行く滴。
「あの、俺で良かったら、話いつでも聞くからね」
遠慮がちに撫でられる頭に、今だけは甘えていたい。
ずっと、泣き止むまで頭を撫でてくれた優しい人。
大好きだよ、沢田くん。
(20070723)
やさしいひと