大きく息を吸えば、最近まであった冬の空気が無くなっている。
すっかり春が近付いているんだなぁ、と空を見上げた。
ベランダから見える限りでもあそこに見えるのは梅。
もう少しできっと桜が咲くというニュースが入るだろう。
もう一度大きく息を吸って洗濯物を手に取る。
最後の一枚をハンガーに掛けると部屋のチャイムが鳴った。
「あ、総悟。早かったね」
「走って来たからねィ」
「…本当?」
全く息が乱れていないからそう尋ねれば嘘だと言われる。
またそんな事を言って、と軽く胸を叩く。
「これ、土産でさァ」
そう言って差し出されたのは一本のガーベラ。
とりあえず受け取ると、総悟は部屋の奥へと進む。
総悟の後ろを歩きながら、ガーベラを見つめる。
「ね、総悟、これどうしたの?」
「んー…貰ったんでさァ」
「貰った?」
「名前、腹減った」
何時もの様にソファーに座る総悟。
総悟に返事をしてキッチンへと向かう。
後ろから明るい喋り声が聞こえた。
次々と声が変わっているからきっとチャンネルを回しているのだろう。
作っておいたカレーを持って総悟の所に戻る。
手を合わせてから食べ始める姿に思わず嬉しくなった。
「あのガーベラ、誰に貰ったの?」
「花屋。俺に似合うからって渡されたけど名前の方が似合うだろィ」
そう言って再びカレーを頬張る総悟。
少し考えて、花屋さんが言った事を理解して思わず笑ってしまった。
そんな私を総悟は不思議そうに見る。
「ガーベラは総悟の方が似合うよ」
そう伝えれば、総悟は益々不思議だと言いたそうに首を傾げた。
(20090329)
神秘