先程から何も言わずに部屋の隅で膝を抱える少女。
仕事の邪魔だとかどうしたとか言葉を掛けたものの、反応は無し。
気にせず仕事を進めようとしてもやはり気になってしまう。


「…おい、名前」


やはり反応は無く、上がっていた顔も膝へと沈んだ。
仕方無く近寄って行くと僅かに体が反応を示す。
向かい合う様に座り、沈んでいる頭を撫でる。
すると、体育座りをしていた名前が抱き着いてきた。


「名前?」

「…別に、何でも無いよ」


この部屋に来て最初の言葉。
何でも無いだなんて、嘘に決まっている。
そんな事は見ていたら解るのに。


「何でも無くねえだろ」

「本当に何でも無いんだよ」


その言葉と共に隊服を掴む力が強くなる。
背中をゆっくりと撫でれば少し力が抜けるものの、離れようとはしない。


「どうした?」

「トシ、仕事」

「しがみついといて何言ってんだよ。ちょっと休憩だ、休憩」


上がった顔は明らかにしゅんとしている。
そんな顔も可愛いと思うのは惚れた弱みだろうか。
絶対に、表に出しはしないけれど。


「本当にね、何も無いの。ただ、何か、変に不安って言うか、寂しいって言うか…よく解らない」


小さい声で、最後はもっと小さい声で、でもしっかり届く。
手を頬に置き、そのまま唇を重ねる。
唇を離して不安そうな瞳を真っ直ぐ見つめた。


「俺は何処にも行かねえよ」

「トシ」

「だから、笑っとけ」

「…うん!」


やっと名前に笑顔が戻る。
やはり、笑顔が一番だと、柄にも無い。




(20090320)
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