帰り道、出会った猫が珍しくて、ちょっと構っていた。
すると声を掛けられたんだ。
「名字」
声に振り返るとクラスメイトの夏目くん。
クラスメイトと言っても余り話した事は無いかもしれない。
ただ、不思議な雰囲気を持っている人。
「あ、この猫、夏目くんのお家の猫ちゃん?」
「あぁ、まあ」
猫ちゃんの喉を撫でればゴロゴロと鳴る。
何か持っていないかと鞄の中身を思い浮かべても特に思い付かない。
ごめんね、と言って撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
「名字は、猫が好きなのか?」
「うん」
「そうか」
そう、優しく柔らかく夏目くんは笑う。
初めて見る夏目くんの笑顔。
余りに綺麗で見とれてしまった。
「ん?俺の顔に何か付いてる?」
「あ、違うの。ごめん」
慌てて謝ると夏目くんはまた笑った。
学校では見ない夏目くんの表情に胸がおかしい。
「名字、いつでも会いに来て良いよ」
その言葉に返事をする前に用事があると言って行ってしまった。
後ろ姿を見送りながら言葉の意味を脳内で噛み砕く。
意味としては違うのだけど、学校以外で会えるかもしれない。
それを考えるととても嬉しくなる。
小さい夏目くんの背中をもう一度見てから一歩踏み出す。
(20090215)
始まりの音