ドキドキする心臓の理由は重々承知だ。
なんでこんなに一人で考え込んでいるのかも。
だからこそ考えは悪い方向に向かってしまう。
言えてしまえば楽だなんてそんな事無い。


「おはよう」


不意に掛けられた声に大きく心臓が跳ねる。
この声が誰かなんて考えなくても解ってしまう。
一つ息を吐いて振り返れば思い描いていたその人。
マフラーが風に揺れている。


「おはよう」


挨拶を返せば僅かに微笑んでくれた。
その笑顔にまた心臓が跳ねて、忙しい。
きっと顔も赤くなっている筈。
冬の気候で寒い筈なのに今はそれを感じない。


「いつも思うけど、寒く無いのか?」


言葉の意味が理解出来ずに首を傾ける。
すると、それ、という言葉と共にスカートを指差す。


「寒いけど、寒くないよ」

「なんだよ、それ」


そう言って笑う土方くんの笑顔にまた心臓が跳ねた。
短い学校の距離を歩く間に一体何回跳ねるのだろう。
チラリ、と笑う土方くんを見てはまた跳ねる。


「これ、やるよ」


言葉と共に差し出されたのはカイロ。
受け取ろうとしたら頬に押し付けられて一気に暖まる。


「じゃあ、先行くな」


私の返事も待たずに走って行ってしまう土方くん。
後ろ姿をぼんやりと見送りながら頬を押さえた。
そして、何気なく見たカイロに書かれている文字。
あぁ、二文字がこんなに嬉しいなんて。



さっきの考え事が土方くんに伝わるまであと少し。




(090120) For 焦がれる、 様
あと少し
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