全くこの人は、めげる事を知らないと言うか、真っ直ぐというか、むちゃくちゃと言うか。
目をハートにしている横顔を眺めながら溜息を一つ。


「…近藤さんって、凄いですね」


ボソッと呟いた言葉は届く事は無くて、アタックした相手にいつもの様に、頬に右突上打を受けて笑いながら座った。


「はっはっはっ、お妙さんは照れ屋さんだなぁ」

「違うと思いますけど」


カランカランと氷がグラスに当たる音を聞きながら、近藤さんの前に置くとまたカランと音を立てた。
赤くなった頬を冷やす様に、おしぼりを当てる。
有難う、とおしぼりを押さえる手が触れて、職業上柄にもなく動揺してしまったりもして。


「名前ちゃんは優しいなぁ」


いつもの人の良さそうな笑顔を浮かべ、向けてくれる。
それでも目は相変わらずお妙ちゃんを探していて、それがなんだか面白くなくて二度目の溜息を吐いた。


「お妙ちゃんの事まだ追いかけるんですか?」

「うん」


追いかけられるお妙ちゃんが羨ましくて、どうして私じゃないのかと少しだけ悔しくて、


「私だって、ケツ毛ごと愛せます」


驚きで開いたままの口に手近にあったフルーツを放り込み、言ってしまった事に後悔はない、とグラスを一気に空にした。




(20070716)
追いかける背中
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