暗い部屋で考えるのはいつだってあの人の事。切れ長の目も煙草を吸う仕草も変なところで涙脆くて恐がりで強気に出る癖に照れ屋な性格とかマヨネーズとか、全部、全部、大好き。そんな事を一晩考えていたら寝不足になるのは当たり前だと反省。噛み殺しきれなかった欠伸を一つ。
「ん?寝不足か?」
「っ、土方さん」
急に掛けられた声と急に間近に現れた土方さんの顔に心臓は跳ねる。整った顔をしているのだからこういう事は本当に色々と良くない。問いの答えを返さない私に土方さんは指を伸ばして、そのまま弾く。
「い、痛いです、土方さん」
「人の話聞いてんのか?」
まさか土方さんの事を考えていたとは言えず、考え事をしていたとだけ伝えれば興味無さそうに適当に返事をされた。こんな物だ。土方さんは真選組の副長で、私は大勢いる侍女の一人なのだから。そろそろ土方さんは朝の会議に向かう筈だ。それなのに目の前から動かない土方さん。不思議に思って見上げればバッチリ目が合った。
「悩みとか、あるんだったら言えよ」
「あ…はい」
「んだよ、人が折角」
優しく微笑んでいた土方さんは次の言葉で顔を逸らし、赤く染まっていた。そんな様子に私までなんだか顔に熱が集まっていく。見ていられなくて俯けば土方さんの足が見えた。すると頭に重みが加わる。
「仕事頑張れよ」
重みは二、三度往復し、離れていく。急いで顔をあげても見えるのはもう後ろ姿の土方さん。背中に返事を返せば、片手が挙がりひらひらと揺れた。私の心はまた一つ、土方さんで埋まった。
(20081210) For 挑戦者の記述 様
あなたは私を吸い込むつもりに違いない