ふわり、と風が吹いて木々が騒いだ。
もうすっかり秋だと思ったら少し嬉しくなる。
近くの木にある枝を指でなぞれば葉が笑った。


「何、してるんだ?」


声を掛けられて振り向けば人間の少年。
ああ、噂に聞いた事がある。
彼の名は確か、夏目貴志という筈。


「レイコさんに似ていますね」

「祖母を知っているのか」

「はい。レイコさんにはお世話になりましたから」


そう言えば彼は苦笑いをして謝罪の言葉を放つ。
とんでもない、と慌て否定すれば目を細めて笑った。
それはかつての夏目レイコを思い出させる。


「何を、していたんだ?」

「秋を、見ていました」

「秋?あぁ、お前は秋が好きなんだな」


ふわり、と優しく微笑んで別れの言葉を残して行った。




彼は今日も同じ時間に通りがかった。


「夏目様」

「あぁ、今日も居たのか」


柔らかく笑った夏目様はとても綺麗だ。
レイコさんと違う、柔らかい笑み。


「お前も、友人帳に名があるのかい?」

「いえ、此処に居たら夏目様にお会いできると思って。私の名は要らないと言われてしまいました」


少し、寂しそうな顔をした夏目様は手を伸ばす。
それは真っ直ぐ私の頭に伸ばされ、撫でる。


「お前の名前は?」

「名前、と申します」


名を教えたら夏目様は優しく優しく呟いた。




(20081029)
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