誰も居ない薄暗い教室の片隅で銀ちゃんは私にキスをする。
頬に優しく触れる手はこの季節に不似合いで冷たい。
唇が離れ、銀ちゃん自身も離れて行ってしまう。
縋る様に銀ちゃんの制服を掴むと一瞬動きが止まる。
しかし、直ぐに冷たい手によって剥がされてしまった。


「銀ちゃん」

「ん?」

「…私の事好き?」


私の問い掛けに返事は無く、在るのは曖昧な笑顔。
キスをしたからと言って私は銀ちゃんの彼女じゃない。
掴まれた腕はまるで銀ちゃんに体温を奪われていく様。


「送るから、帰るぞ」


掴まれていた腕から握られている手に変わった。
私の手から奪ったのかそれとも慣れたのか。
先程とは違う銀ちゃんの手の温度。
繋がっている事が嬉しくて少し力を込める。
気付いた銀ちゃんが頭一つ分上から見下ろす。
誤魔化す様に笑うと銀ちゃんも笑った。


銀ちゃんの髪は月に照らされキラキラしている。
風に揺られまたキラキラと輝く。
見惚れていると、銀ちゃんと目が合った。


「ねえ銀ちゃん」

「ん?」

「私の事、好き?」


再度問い掛ける。曖昧な笑みは無い。
暗いから、少し見辛い銀ちゃんの顔。
銀ちゃんの足が止まり私の足も止まった。
向かい合った銀ちゃんの顔を見上げる。


「好きだよ」


柔らかい微笑みは私の大好きな銀ちゃんの表情。
そして、大嫌いな銀ちゃんの一部分。


「ほら、帰るぞ」


歩き出す銀ちゃんに手を引かれ歩く。
この手を離したくないから私は銀ちゃんに騙される。
結局は私も自分の欲求を満たす事が大事なんだ。
銀ちゃんの左手の薬指に光るシルバーは都合良く忘れる。


「銀ちゃん、大好き」




(20080907)
夢見るアリス
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