ぼんやりと呼吸を整えながら気付く。
ゆるくカールした髪が額に張り付いている。
手を伸ばして髪を一房摘めば、ゆるりと笑む。
その笑みに何人の女性が惹かれたのだろう。
そんな事を考えていると、頬に手を添えられた。


「こんな時に何を考えているのかな?」


笑みを浮かべたまま頬から手が上がっていく。
さら、と髪の中にその手が入り掻き上げる。
触れていた髪が無くなりひやりという感覚。
深緑の一房を摘んでいた手はもう片方の手に捕まえられた。
額にはまだ髪が張り付いたままでそれが変に色気を醸し出す。
元々あるのにこんな時に増さなくても良いのに。


「姫君の思考を占領するなんて余程の事かい?」

「別に、大した事じゃ無いですよ」


そう、と呟いて髪を掻き上げる。
なかなか見られないからもう少し見ていたかったのに。
自由になった片手で再び深緑を一房摘んだ。


「友雅さんの髪の毛、綺麗ですよね」

「名前には負けるよ」


そう言って私の髪を一房摘み唇を寄せた。
目の前でそんな事をされて心臓が保たない。
彼は解った上でやっている様な気もする。


「名前」


優しい声と降ってくる口付けを受け入れながらこの人にはいつまでもかなわないだろうなぁとぼんやり思った。




(20080722)
深緑
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