もうこれ以上無いんじゃないかという位緊張して誘った。
少し戸惑って、それでも笑って了承してくれた彼女。
嬉しくて心臓が跳ねるのを誤魔化す為に走って帰ったのは昨日の事。


嬉しさと緊張が入り混じった待ち時間。
深呼吸をして空を見上げれば青と橙のグラデーション。
遠くから蜩の鳴く声が聞こえた。
この時間になれば少しは涼しくなる。
それでも少し暑くて先程道端で貰った団扇で扇ぐ。


「ツナくん、お待たせ」


現れた彼女を見て心臓が騒ぎ始める。
いつも制服の彼女は今は浴衣。
学校では下ろしている髪も上げられている。
思わずジッと見てしまい、その視線に気付いたらしい彼女。
少し頬を染めて控え目に両手を持ち上げた。


「浴衣似合う、かな?」

「うん、似合うよ」


顔が熱い。多分今顔は真っ赤だろう。
彼女を見れば同じ様に顔が赤い。
パッと目が合って、二人で笑った。




「はい、名前ちゃん」


林檎飴を差し出せば笑って受け取った。


「あのね、これはサービスだって」

「え?」

「今日でお祭り最後だから」


林檎飴を買いに行く途中通った所。
サービスだと貰った二匹の金魚。


「名前ちゃんにあげる」

「有難う」


受け取ろうとして彼女の指が触れた。
瞬間的に引いてしまい、金魚が驚いた様に泳ぐ。


「ご、ごめん」

「あ、私こそ」


それから、金魚は彼女の手へと渡る。
先程触れた指先が熱い。
会話もそれまで弾んでいたのに途切れてしまった。
どうしよう、と焦って考えても何も思い付かない。
ゆっくり歩きながら考える。


しかし、ふと振り向いても彼女の姿が無い。
ヒヤリ、として次に襲うのは焦燥感。
気付けば足は動いて目は彼女の姿を探す。
来た道、途中休憩したベンチ、全て。
見つけた彼女はベンチに座って金魚を眺めていた。


「名前ちゃんっ!」

「あ、ツナくん」


俺の姿を捉えて彼女は笑う。
金魚は二匹でゆらゆらと泳ぐ。
謝ると、彼女はきょとんとして首を傾げた。


「俺がちゃんとしてれば一人にしなかったのに」

「んー…でも、ツナくんはちゃんと探してくれたでしょ?それだけで嬉しいよ」


微笑んで、ベンチから立ち上がる。
それでも俺の方が背が高いから見上げたまま。
心臓と言うか、体全体と言うか、煩い。
熱を持って、胸は絶えず締め付けられる。
このまま熱中症になってしまいそうだ。


「名前ちゃん、またはぐれたらいけないから、嫌じゃなかったら、手を繋ごう」


手を差し出すと暫くそれを眺める彼女。
もしかしたら嫌だったかもしれない。
少しの後悔が襲い始めた頃触れた温もり。


「ちゃんと、引っ張ってってね?」


赤い頬につられて顔に熱が集まるのを感じた。




(20080719) For 愛したウェンディ 様
今日はお祭りの最終日
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