「マスター、俺はもう歌いません」
真剣な顔をして此方を見下ろす。
いきなり何を言い出すかと思えば。
ふと目に留まったカレンダーにカラフルな印。
「どうして?」
「うっ…ど、どうしても、です!」
一瞬困った顔をしてから再び意を決した様に手を握り直したカイト。
なんでこう、カイトは判り易いんだろう。
今までそんな経験の無いだろう彼は、いかにもと言う様に笑みを押さえ込んでいる。
「カイトはもう歌いたく無いの?」
「…歌いたく、無いです」
面白すぎて、私が笑ってしまいそう。
手招きをすると従順に隣へと座った。
やはり座ってもカイトの方が顔が上にある。
そんなカイトを見上げながら口を開く。
「解ったよ。歌わなくて良いよ」
そう告げると本当に本当に嬉しそうに破顔した。
瞳はライトが当たっているんじゃないかという位輝く。
「マスター、吃驚しましたか?嘘ですよ!エイプリルフールです!」
にこにこと此方を向いている様が可愛い。
これで本気を出せばなかなか男前だったりする。
しかしやはり、偶にだから良いのかもしれない。
「吃驚したけど…ね、カイト」
「はい?」
「エイプリルフールは昨日だよ。今日は二日」
「え?えええぇぇ!」
(20080401)
卯月睦日