有難う御座いました、と言う声を背にお店を出る。
買い物は終わった。買い忘れも無い筈。
手元の袋とメモとを何度も見比べる。
一つずつ確認して、メモをポケットにしまう。
行きよりも確実に重くなった左手を引き摺る様に歩き出す。


「あれー?名前ちゃん?」


声に顔を上げれば目の前には久しぶりに見る姿。
前に一度依頼した事がある万事屋の主人。
確か最後に会ったのは数ヶ月前だった筈。
それなのに、名前を覚えていてくれたなんて。
特に特別な間柄でも無かった筈なのに。
少し距離を開けて、お互いに立ち止まる。


「お久しぶりです」

「買い物?」

「はい」


前に会った時と変わらない姿。
不思議な人、という印象は変わらない。
何処か掴めないそんな空気を纏う。


「元気でやってんの?」

「はい」

「そりゃあ、良かった良かった」

「坂田さんも元気そうで」


そう言えば坂田さんはあぁ、と少しだけ笑う。
その笑顔になんだか違和感を感じた。
坂田さんに、では無く、何かが引っ掛かる。


「私、お使いの途中なので、帰りますね」


坂田さんは何も言わず笑った。
一度お辞儀をして歩き出すと坂田さんも歩き出す。
ふわり、香る甘い甘い、香り。


胸の高鳴りを連れて来る。




(20080313) For 瞬間 様
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