「マスター起きてー」


声と布団を叩く音に体に伝わる振動。
折角の休みだって言うのに、朝早い時間の筈。
だって何だか光の感じが違うんだもん。


「マスター」


マスターのまとすとたの間に区切りが入るかの様な呼び方。
マスターと呼ぶのは誰かなんて決まっている。
ゆっくり揺さぶられ、仕方無く目を開けると飛び込む青緑。
私の目が開いた事に気付くと嬉しそうに細められる。


「おはようマスター」

「おはようって、レンが起こしたんでしょ」


起きて起きて、と腕を引かれ体を起こす。
けれど窓から射し込む朝日の強さに目を擦る。


「だって、マスターの好きな虹が出てたんだよ」

「…虹!」


レンの指差した方に目を向けると言葉通り虹。
虹に興奮してカメラ、カメラと探す。


「はい、マスター」

「有難うレン」


夢中になってシャッターを押していると、ふと引かれる腕。
ふわっ、と頬に触れる柔らかい物。
何かと理解した時には顔に熱がすっかり集まって、


「レンっ!」

「マスター隙だらけなんだもん。それに少しは俺の相手もしてよ」

「だからって!」

「マスターだーいすきっ!」


首に回るレンの腕は離さないと言っている様。
抱き付いたレンの勢いを受け止めきれず、ほんのりと温もりの残る布団へと倒れる事に。


「ちょっと、レン」


どうにか起き上がろうと足掻いてみても、首に回った腕は全くびくともしない。
レンを見ればただ微笑んでいるだけ。
手を伸ばして頭を撫でると猫の様にすり寄ってくる。


「レン」

「何?」

「このまま、寝よう」


暖かいレンに瞼が段々重くなって今にも閉じてしまいそうだ。
ボーカロイドのくせにどうして暖かいんだろう。
遠くにレンの声を聞きながら欲へと従順に落ちていく。




(20080229)
穏やかな朝に
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