夜遅く、控え目にノックされた扉を開く。
そこに立っていたのは任務に出ていたラビ。


「あ、お帰りなさい」

「ただいま」


慣れた様子で部屋へと入り込みベッドへ倒れ込む。
相変わらずだなぁ、と息を吐いて静かに扉を閉める。
既に自室には寄って来たらしく、団服では無い。
ヘアバンドも外されており、その髪の毛は僅かに濡れている。


「ちょっとラビ、枕が濡れるでしょ」

「あー、悪い悪い」


そう言うとベッドの上に座り、渡したタオルを頭に被せた。
そのままの格好でにこにこと見上げられる。


「何?」

「別に、何でも無いさ」


にぃっと笑うと髪の毛を拭き始めた。
そんなラビの様子を見ながら椅子に座る。
任務から帰る度の出来事だから気にはしていない。


「ラビ、次の任務は?」

「明日出発するらしい」

「朝早いの?」


頷いてゴロン、と再びベッドに寝転ぶ。
暫くその様子を見ていると、目が合って手招きされた。
従ってベッドの側まで行けば手を引かれる。
後はもう、ラビの腕の中に倒れ込むだけ。
心臓が煩い理由は多分二種類あるんだろう。


「今夜はこうして寝るさ」

「ラビ、セクハラするでしょ」

「しねえよ」


じたばたと腕の中でもがいてみてもびくともしない。
ラビは男だから力の差がある事は解っている。
それでも心臓が保たないから暴れる他無い。
暫く暴れていたけれど、不意に頭の後ろに手が回された。
そのままラビに強く強く抱き寄せられる。


「今度の任務は長くなりそうなんさ」


ラビの声が体を通して振動まで伝わる。
いつになく真剣な声に顔を見たいのに、頭の後ろに回された手によって見る事が出来ない。


「名前にも暫く会えなくなる。だから、今日は一緒に寝るさ」

「…私ラビの彼女じゃない」


上から苦笑いする声が聞こえる。
いつ、命を落とすか解らないエクソシスト。
だから私はラビに気持ちを伝えない。
それはラビにも言える事だった。
特にラビはいつかブックマンになる。
腕の力が少し緩んで、やっと顔が見えた。


「ラビ、私いつまでもラビの味方だからね」

「当たり前さ」

「でも、明日の朝まではラビの時間私だけに頂戴」


頷いて、ふわりと微笑むラビが好き。
伝える事は無いだろうけれど、今日だけは、
今だけ、明日の朝まではラビは私の物。




朝、目が覚めると既にラビはいなかった。
全く温もりも残さず消えたラビ。
どうか、任務で悲しい事が一つでも少なくあります様に。




(20080210) For 修羅と恋 様
明日の朝まできみを頂戴
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