物音がしてそちらを向けばマスターの姿。
銜えていたアイスを手に持ってマスターの元へと駆け寄る。
「お帰りなさいマスター!」
いつもの様に笑顔で声を掛ける。
しかしマスターは俺の顔を見る事もせず横を通り過ぎた。
マスターの様子に首を傾げソファに座る様子を眺める。
背もたれに体を預け腕で目元を隠してしまう。
「マスター?」
「…あぁ、ごめん。ただいま」
腕を退け、此方を向いて笑う。
その笑顔はどことなくぎこちない。
そしてそのまま横に倒れてしまった。
「マスター、どうかしたの?」
「……カイト、アイス溶けちゃうよ」
「アイスよりマスターの方が心配」
手摺りに座ってマスターの髪を梳く。
ビクッと反応はしたけれど顔は伏せたまま。
「マスター」
「…少し失敗しただけだよ」
か細く、顔を伏せている為曇もった声。
顔が見たくて、でもどうする事が出来ない。
ただ頭を何回も何回も撫でるだけ。
けれど俺にも出来る事はある。
「マスター、俺マスターの為なら幾らでも歌うよ」
「…カイト」
俺の言葉にマスターは上体を起こした。
髪を撫でていた手をマスターの頬に持っていく。
真っ直ぐに俺を見つめるマスターに愛しさが湧く。
ボーカロイドである限り有り得ない感情。
しかし、こんなにも強い想いはそれしか無い。
愛しい、という感情は擽ったくて心地良かった。
「だから、笑って名前さん」
名前で呼べば驚いた顔をしてふわりと笑う。
「じゃあ、歌って。カイトの好きな歌」
「はい、喜んで」
(20080119)
歌声が届く限り