「銀ちゃん銀ちゃん」

「あー?」

「海行こう!海!」


銀ちゃんの背中を叩きながらそう言って、めんどくさいと呟く口に砂糖を詰めて引き摺る。
そうしてやってきた海は人気は無く砂ばかり。


「さみーじゃあねーか。人も居ねーしよ」

「私がいるよ!」

「大体秋に海って、季節に縋りついてるだけじゃねーか」

「煩いなぁ銀ちゃんは」


ブツブツと文句を言いながら縮こまる銀ちゃんの腕を引っ張る。
バランスを崩した銀ちゃんは冷たい水の中。


「つ、めてー!何すんだよ名前!」

「頭冷やしてよ」


寒い寒い、と言いながらも水から上がらない。
仕方無いなぁ、と手を伸ばせばその手を引かれ、バランスを崩した私は銀ちゃんの腕の中にダイブした。


「冷たい!酷いよ銀ちゃん!」

「おあいこだろ」


にぃっと笑う銀ちゃんを置いて先に砂浜に出る。
風が吹いて寒いけれど羽織る物が無い。
何か無いかとスクーターまで戻ろうと思ったら何かが降ってきた。
見慣れた着流しは水分を吸って重い。


「冷たい」

「おまっ…!寒いだろうと思って俺だって寒いけど掛けてやった銀さんの優しさ!」

「あーもー煩いなぁ」


腕を引っ張って、着流しを広げて、そのまま抱き付いた。
するとよろけた銀ちゃん共々砂浜に倒れ込む。
体勢を直して、銀ちゃんの足の上に向かい合って座り、落ち着く。


「ねーえ、銀ちゃん」

「ん?」

「銀ちゃんは人気者だから、仕方無いけど、たまには私の事だけ考えてね……って言うのは独り言。さー風邪引くから帰ろ」

「……」


銀ちゃんの着流しを体に巻き付けて、息を大きく吸った。




帰り道、濡れた服でスクーターは寒いと銀ちゃんは言っていて、でも決して私から着流しを受け取ろうとはしない。
ふと、声が聞こえて耳を澄ます。


「名前ちゃん人気者だから銀さん寂しくなっちゃう事もあるって言うのは独り言だから気にするなよ」

「銀ちゃん」

「何か言ったか?」

「何でもない!」


銀ちゃんの背中に頬をくっつけていると僅かに香る潮。
思い切りぎゅっと抱き付いて、目を閉じれば幸せが沢山。




(20071105)
細波ワルツ
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