はぁぁ、と大きく溜息を吐いて下を見下ろした。
幾つも並ぶ窓の中ですぐにわかってしまった一つ。
後ろ姿だけど、遠いけれど、くっきりと見える姿。
きっと、沢山ある書類に目を通しているに違いない。
周りからは恐いと言われているけれど、そうでもないだろう、と思っていた。
確かに笑わないし、笑ったとしてもそれは穏やかではない。
それに今更にこやかにされた所でこちらが困ってしまう。
しかし、以前階段から落ちそうになった時彼は助けてくれた。
余りにもさり気なく、でお礼を言い損ねてしまったけれど。
後日お礼に行ったらそんな事はしていないと言われたし。
「ねえ」
いきなりの声に飛び上がるかと思った。
今まで見ていたはずの後ろ姿は無い。
恐る恐る振り向くとまさにその本人様。
眉間の皺を見て返事をしていない事に気付き慌てて返事をする。
「僕の事ずっと見てたのって君だよね?」
(バレてるっ!)
急いで頭を働かせてどう答えるべきか考え始める。
けれど、上手く働かないのか頭は真っ白なまま。
心臓はいつもより煩いしなんだかクラクラする。
というよりも、どうして私だとわかったのだろう。
雲雀さんがいた応接室から屋上は遠いはず。
「どうなの?」
「あ、あの、はい。私…です」
「そう、咬み殺して欲しいの?」
慌ててすみません、と頭を下げてからあれ?と思う。
いつもならばトンファーを構えるはずなのだ。
頭を上げるべきか自分の足を見つめたまま悩む。
すると「いつまで頭下げてるの」って声がしたから、頭を上げたら思いの外近くに雲雀さんがいた。
思わず一歩下がりそうになったのを阻止したのは雲雀さんの腕。
「君がずっと見てるから書類に集中出来ない」
「すみま、せん」
「責任取ってよね。じゃないと咬み殺すよ」
そのまま近付いて触れた感触を私は夢かと錯覚した。
けれど、次には手を引かれる私がいて周りが騒ぐ。
あぁ、夢ではないのだ。
(20070913)
屋上夢