おはよう。その一言ですら、俺の心を締め付けた。
 目があって、声を掛けてくれて、笑い掛けてくれて、俺は毎日幸せだった。そんな些細な事でさえ、俺の生きる糧だった。

 でもある日気づいてしまった。君は俺を見ていない。いつもあの子を見ているんだ。そうして、遠くから見て、微笑むんだ。俺には見せない特別な笑顔で。

 どうして俺を見てくれないんだろう。こんなに近くにいるのに。
 ほら、手を伸ばせば君と手を繋げられる。
 あと、ちょっと。

「アキ!」

 ガタンと椅子を鳴らして、君は彼女の方へと行ってしまった。
 君は、とうとう俺から離れてしまうのか?

「や、だ……なぁ…」

 服の上から握ったって、ズキズキ痛む傷は治まらない。





 ちらちら、ちらちら。血が壁に、床に、俺に、これに、ついている。
 ああ、君はやっと俺を見てくれた。その青いキラキラした目に俺を映してくれた。
 嬉しいなぁ。嬉しいなぁ。その目、欲しいなぁー。

 ぐにゃりとした感覚が指先から伝わる。ああ、君のはこんなに柔らかいんだ。腹の中からゾクゾクしてきて、その感覚はまるでセックスをしているようだ。あまりの気持ち良さに、思わず顔が緩んで情けない顔になる。
 ゆっくりと、壊さないように手を引くと、君は獣みたいな鳴き声を上げながら暴れだした。涙と涎と、色んなものでぐっちゃぐちゃの顔。彼女は知らない、俺だけが知ってる顔。
 君はそんな顔も出来るんだね。君はどんな顔も綺麗だよ。

 綺麗に取れた君の青い目玉。これからはずっと俺を見てくれるんだね。
 嬉しいなぁ。嬉しいなぁ。食べてしまいたくなったけど、それじゃあ俺を見てくれない。これは大事に俺が持っていなくっちゃ。

「遊星、だーいすき」

 ぎゅっと遊星に抱きついた。ピクリとも動かないけど、息はしてるみたい。良かった。本当は君の目玉だけじゃ足りないんだ。

「髪も、腕も、足も、心も。遊星の全部まるごと俺にちょーだい」

 まだ満たされない。俺は欲深い男だなぁ。



12/11/26
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