人魚の真実

 大規模な発展を遂げたとある街。その街に面した海には大きな港がある。何隻もの船がゆらゆらと波によって揺れ、時に豪華客船が港にとまることもある。
だが、コンクリートだらけのこの海岸の隅には、ぽつりと浮いている砂浜があった。一切手がかかっておらず、自然状態で残っている場所はもうここしかない。しかし、手がかかっていないにも関わらず、その場所は常に綺麗なままである。
なぜ手がかかっていないにも関わらず綺麗なままであるのか。なぜ異様な形でその砂浜は残っているのか。それは、その砂浜が呪われているという噂があったからであった。
この街がぐんぐんと発展していった時代。その時この砂浜も常に人で賑わっていた。そんな明るい話とは反対に、夜一人でその砂浜に行ったものは帰って来ないという奇妙な事件が相次いだ。その行方不明者の多さにとうとう街はその砂浜を立ち入り禁止とし、誰もその呪いに触れようとしなかった。

「へぇ、そんな風に言われてたんだ」
「……誰のせいだと…」

 海の奥深く、岩の中の巨大な空洞の中で十代はその話をのんきに聞いていた。その話がつまらないのか、時折あくびを噛み締めている。
 十代に地上の話をしていた者は、十代と同じ顔をしていた。同じ顔であるが、彼を取り巻く雰囲気は十代とは正反対である。少し落ちた瞼から覗く黄金の目と、緩むことのない口。
鉄仮面と呼ぶにふさわしい顔をしている彼は、手元の本に視線を落として十代を見ようともしない。その態度に、十代は同じ顔で目に分かるほどの不機嫌を表した。

「あの人間……どうするつもりだ」
「え?何?覇王、遊星のこと気になるの?」

 十代は覇王と呼んだ人物に目を丸くして詰め寄った。覇王が本以外に興味を持つなんて珍しいと呟くと、覇王は一瞬眉をひそめた。

「お前のことだ。どうせ前のやつらのように飽きたら材料にでもするんだろう」
「えー?違うぜ?たしかに前のやつらは、この間俺が人間になる為に使ったけどよー」
「魔法で人間になってまで、その男をここに引き入れる価値がそいつにはあるのか?」
「覇王。お前、俺と双子なのに分かんねーの?」

 覇王はガリ勉魔女だから分かんないかと続けるが、覇王は一切表情を変えない。反応が返って来ないことを分かっているためか、十代もその態度に嫌な顔一つしない。
 すっと覇王から離れると、十代は巨大な泡の中で眠っている遊星に近づいた。自分と違ってヒレではなく二本の足を持つ遊星を、十代は愛おしそうな目で見つめた。
 そんな十代を見て覇王は気づいてしまった。そして、どうして早くに気づかなかったのかと後悔した。

「その顔。やっぱり気づいちゃったか」
「十代……お前…!」
「覇王がもっと早くに気づかなくって良かったよ」

 十代の目がオレンジと緑色に輝いた。覇王には、その顔に浮かぶ笑みは禍々しいもののように見えた。

「成功事例がない魔法だからどうなるか分かんないけど、お前が残っててくれて本当に助かったぜ!」
「……そいつを人魚に変えてみろ。下手をすれば死ぬぞ」
「大丈夫だって!だって死ぬのは俺じゃねーもん」
「は?……ぐあっ!」

 十代の目が輝きを増したと思った途端、覇王の体は指先一つ動かせなくなった。立って泳ぐことすら出来ず、側にあった物を巻き込んで床に倒れ込んでしまった。
 十代は狂気に満ちた笑みを浮かべて覇王に近づく。上から見下ろしてくる十代に、覇王は下から睨みつけることしかできない。
 十代と同じ魔女である覇王は、自分の力では十代に太刀打ち出来ないことを分かっていた。生まれながらにして強大な力を持つ天才である十代。覇王の前には絶望しかなかった。

「バイバイ、覇王。今度会う時は遊星の足だな」

 双子の十代をこれほどまでに恐ろしいと感じたこ



12/12/15

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