とある海に面したこの街は、大規模な発展を遂げていた。水産業はもちろんのこと、科学面も発達している。
 そんな場所に人は集まる。過密したこの街に一人の青年は住んでいた。
 不動遊星。彼は、田舎で暮らす両親の元を離れて暮らしている。この街の原動力を管理する会社の科学者としてこの街で働く彼は、女性とは無縁の人生を送っていた。

「合コン…?」
「そうそう!お前、顔は良いから女の子達寄ってくるぜ!」
「興味ないな」
「あぁっ!?」
「まあまあ、不動は機械馬鹿だからよ…」

 遊星に声をかけた友人は、お前はそれでも男か!と叫んだが、さっさと荷物をまとめて部屋を出ていった遊星は聞いていなかった。

 遊星は女の子に興味がないというより、この街に住む人達に興味がないのだ。自分の利益しか考えていないような連中に、遊星はうんざりしていた。

「会いたい…」

 そう呟くと、遊星は帰り道とは違う道を通っていった。





 この街には絶対に行ってはいけない場所があった。そこは人の手が全くかかっていない砂浜である。手がかかっていないと言うより、手がかけられないのだ。昔からの言い伝え、人食いの人魚が出ると。

「十代さん」

 そこに遊星はいた。言い伝えの為、この砂浜には誰もいない。遊星が人の名前を呼んで少し間を置いて、海から影が上がった。

「遊星、今日も来たのか?」
「……ええ」
「お前なぁー友達作れよ」
「十代さんがいます」
「人魚と友達かよ」

 十代は陸の近くにある岩に肘をつきながら失笑した。
 彼は人魚である。遊星と初めて会ったのは、遊星がこの街に来てすぐのことだった。
 遊星はこうやって時々十代に会いに来ているのだ。時には愚痴を聞いてもらったり、他愛ない話をしたりもする。

「ふーん。女の子」
「俺は興味ないです」
「えっ。もしかしてアッチ系の…!?」
「そうじゃありませんノーマルです」
「冗談だっつーの!分かれよ!」

 話し込んでいると、いつの間にか辺りは暗さを増していた。
 遊星がいい加減帰らなければ明日の仕事に支障が出ると言い出し、荷物を肩に掛けた。

「遊星」
「はい?」
「その女の子と会うやつよー。一回は行った方が良いと思うぜ?」
「俺、興味がないって言いましたよね」
「お前は食わず嫌いするようなやつなのか?」
「……分かりました。一回くらいは行ってみます」

 それではまた、と手を振る遊星に、十代は見えなくなるまで両手を伸ばして大きく手を振りかえした。
 誰もいなくなった浜辺には二人分の足跡が残った。




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12/10/29

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