年頃の女の子なんだから、男の子と付き合ってみたいとか思うのは当然だろう。 だが悲しいことに、私の周りの男の子と聞いて、思い浮かぶのはあの両片想い状態の二人しかいないのだ。あの二人は恋愛対象ではなく、私にとっては萌えの補給対象でしかない。 「おーい花子ー!」 「げっ!遊馬!」 遊馬が教室の扉から私を大声で呼んだ。 遊馬がこうやって私を呼ぶ理由は決まっている。またノロケ話を聞かされるのだ。遊馬は本当にあのシャークが好きらしく、ほんの些細なことから全てを話してくる。最初はそりゃ目の前の好物に悶えていたが、それが毎日となるといい加減疲れる。 早足で遊馬のところまで移動すると、両肩を掴んで周りに聞こえないように小声で言う。 「あのね、何回言えば分かるの。私はシャークと同じクラスなんだから、呼ぶならシャーク呼べよ!」 「だってなんかあれ以来ちょっと二人きりでは居づらくって……」 思わず、シャークは遊馬のことが好きなんだから自信を持てと言いたくなったが、それをぐっと沈めた。 遊馬には、シャークが遊馬のことを好いていることは言っていない。同様に、シャークにも遊馬がシャークのことを好いていることは言っていない。当たり前だが。 大体、人の恋愛事情に首を突っ込んでいる時点で間違っているのだ。私は二人の恋愛を傍観したいだけではないかと気づいたのは最近で、同時に遊馬にたまにアドバイスをしていた自分を悔やんだ。 「いい加減止めようかなー…」 「何が?」 「……別に。ほら、休み時間なくなるよ?屋上行かなくていいの?」 ただノロケのはけ口というポジションの私を周りがそう見ているわけがないなんて、私は空気だからそんなこと考えもしなかった。 「……」 デュエルは楽しい。没頭出来るし、ほんの些細な時間であるが悩み事を忘れられる。 「まだまだこれからだぜ!俺のター…」 「遊馬」 背中から聞こえた声に、遊馬はびくりと体を跳ねた。普段ならするりと名前を呼べるのに、今は違う。名前を呼ぶことすら遊馬の心臓を鳴らす。 「シャ、シャーク……」 「……話がある。コイツ借りるぜ」 凌牙は遊馬の手を掴むと、強引に引っ張った。触れている部分が熱く感じ、凌牙に触れられていると意識すると、あの夜の事を思い出して、かっと赤くなる。 そう思っていると、ぱっと手を離された。着いたのは凌牙のクラスであった。中には誰も居らず、窓から落ちかけている日の光が差している。 正直、遊馬は期待していた。あの夜の事もあり、凌牙は自分を好いているのではないかと。でも自惚れてはいけないと、遊馬はどくどく脈打つ胸を押さえた。 「遊馬、お前が好きだ」 とんっと一度大きく胸が跳ねた。嬉しさと恥ずかしさと緊張と、色々な感情でぐるぐるしている間に、遊馬は凌牙に抱き締められた。 自分も凌牙の気持ちを受け止めようと、凌牙の背中に腕を回そうとした。 「でも」 遊馬の腕が凌牙の背中に届く前に、凌牙は遊馬を突き放した。遊馬の腕は行き場を失い、そのまま不自然な形で止まる。 「……すまない…抑えきれなかったんだ。……俺の気持ちだけ、知ってほしかったんだ…」 凌牙が何故泣きそうな顔をしているのか、何故そんな事を言うのか、遊馬には分からなかった。 夜は好きだ。特に宿題がない日の夜は最高だ。趣味に没頭できるから。 「そんな時間になぜ君は電話をかけてくるのかね」 「いやさ、変な噂とヤバそうなの見かけたから」 ネットをしながら、Dゲイザーに映る友達をたまに見て話す。今は私の趣味の時間なんだ。多少態度が悪くたって、この子は気にしないから大丈夫。 「まず噂からね。クラスの女の子が言ってたよ。花子と九十九遊馬くんが付き合ってるって」 「……え?は?」 「あとね、今日放課後に忘れ物取りに行ったんだよ。そしたらシャークが走って教室出ていってさ、何かあったのかなって思ったら、教室に九十九遊馬くんがいたんだ。よく見たら泣いてたんだよね。何かされたのかなー」 「……どういうこと?」 まるで意味が分からない。噂の理由も、シャークが遊馬を泣かした理由も。 シャークはもしかして遊馬に告白したのではないのか。でも、それなら遊馬を置いていくなんて、ましてや遊馬が泣くことなんてないじゃないか。 「まあ友達でもないし、私はどうでもいいけど」 その話題に関してはその言葉で絞め、噂に関しては相談を聞いているだけだと返して電話を切った。 ネットを続ける気もなく、電源を落とした。Dゲイザーに入っている九十九遊馬のアドレス。家族、友達、先輩、後輩。どのグループにも属さないただ一つ孤立しているアドレス。 「私は、なんで両片想いの二人の気持ちを知ってしまったんだろう」 もどかしい、早く付き合ってしまえばいいのに。そう思うが、私が口を挟んではいけない。そもそも、私はなぜいつまでも二人の間にいるのだろうか。 「私は一体何なんだろう」 口に出したところで答えは返ってこない。 12/11/26 main top |