「おかえりー。神代にシバかれた?」
「いや、うんまぁ…それに近い…」
「話なら聞けるよ?」
「いや、言うなって脅されてるから……」

 シャークが九十九遊馬くんに恋をしていることは、うっかり知ってしまった私とシャークの秘密である。
 絶対誰にも言わないと約束したが、シャークはどうやら私を信用していないらしい。

「神代が花子をずっと見てるけど。恋愛フラグでも立ちましたか?」
「手でハートを作るなぁ!誤解されるだろうが!あれは見てるんじゃなくて監視されてんだよ!」
「ツンデレ乙ー」
「止めろよぉ…シャークに殺される…」

 その日はシャークの人を殺せそうな目にびくびくしながら終わってしまった。

「あんなにグサグサ見るなら九十九遊馬くんを見とけよ!」

 周りに人がいない土手道を、悪態をつきながら歩く。いつもなら小さな声で歌いながら帰るのだが、生憎そんな気分ではない。むしろ、大声で叫びたい気分である。

「ばっきゃろぉー!」
「うわっ!」

 本当に大声で叫んだら、なんということでしょう。土手の下に人がいるではありませんか。
 そんな悠長に構えてる暇なんてない。相手も私もびっくりして、無言が続いてしまった。

「あれ?もしかして……九十九遊馬くん?」
「えっ?うんまぁ…そうだけど?」

 噂に聞いていたのと違う気がした。彼はこんなに元気のない子なのだろうか。そりゃ、人間なのだから落ち込むこともあるだろうけれども。

「元気ないぞー九十九くん。そんな時は……?」

 ちらりとデュエルパッドを見せると、九十九くんは気合いを入れる声かけをして、デュエルだ!と笑顔で叫んだ。





 デュエルの結果はもちろん私の負け。デュエル初心者がWDC優勝者に勝てるわけがない。

「花子…もしかしてデュエルしたことない?」
「何故バレたし!」

 そりゃあ通常魔法を相手のバトルフェイズ中に発動しかけたという、初歩的なミスを連発したのだ。猿でも分かる。

「初心者相手じゃ手応えなかっただろうけど、ちょっとは元気出たかい?」

 そう、元々はそれが目的だったのだ。デュエルの勝ち負けは関係ない。デュエルは楽しんだもの勝ちである。
 そりゃ勝ってみたいけれどもだね。

「デュエルは楽しかったけど……」

 そう言うと、九十九くんはため息をついてしまった。逆効果であったかと、反省して頭に手を当てた。その調子に乗ってした無駄なオーバーリアクションが仇となり、私のDゲイザーが落ちて土手を転がってしまった。

「ぎゃあっ!私のDゲイザー!」
「…花子って女の子らしくないな」
「悪かったな!男っぽくて!」

 そう言っている間に、九十九くんは土手を降りて私のDゲイザーを拾ってくれた。なんだか悪い気がしたが、無駄にテンションが高い私は、土手の上からよっ!男前!と叫んだ。
 しかし、九十九くんにはそんな冗談は通じないのだろうか。私のDゲイザーを拾って戻ってきた九十九くんの顔は、なぜか真面目であった。

「つ、九十九くん?やっぱりこのテンションウザかった…?」
「……花子。これ、どういうことだよ」

 目の前に突きつけられた私のDゲイザーには、あの例の写真が映っていた。急激に低下していく場の空気に、私は苦笑いしか出なかった。



12/10/24
main top