私は家に帰ってからも呆然としていた。

 ということはなく、むしろ興奮していた。
 WDC優勝者の九十九遊馬くんは、かっとビングという呪文を使い、勉強以外にはどんなことに対しても全力で行う元気な男の子。
 一方札付きシャークといえば、デュエルの全国大会で準優勝を納めた天才。だけど、学校一の札付き。ヤバいやつとつるんでたって話を聞いたことがある。

 まるで正反対のような彼らがキスをしていたなど…。

「どんなギャップだよ!これは萌えろといっているのか!くっそ!札付きのくせにあんな可愛い子と付き合ってんのかよ!萌えをありがとうございます!」

 机をバシバシ叩きながらそう叫ぶと、お母さんに頭大丈夫?って心配された。





 「……何コレ」
 「いや、私も詳しい事は分かんない」

 昨日撮れてしまった写真を見ながら、友達は眉間に皺を寄せた。この写真は幻でも私の妄想でもないことが、これで証明される。

「よく出来た合成写真だね」

 わけもなかった。

「いやいやちょっと待って!?これ本当に合成なんかじゃないから!」
「アンタとうとうこんなことするにまで落ちましたか…」
「おい、そんな目で見るなよ」

 友達に何度説明しても理解してくれなかった。説得しようにも、私が言えるのは「合成じゃない、本当に見た」という、ホラ吹きでも言える言葉だけ。

 ……しかし待てよ。ここで「いやーやっぱりバレたか!実は合成なんだよね!」と言ってしまえば、この写真が事実であると知っている人は私だけになる。

「(よく考えたら本人にこんな写真撮ったことがバレたら大変じゃないか)いやーやっぱり…」
「ねぇ神代。これ花子が作った写真なんだけど」
「あ?」

 なんで本人に見せちゃってるんですかぁああああああああ!!
 ああ!シャークがこっちを睨んでる!そんな目で見るな!威圧感だけで死にそうだよ!

「おい山田……話がある」

 ずるずる引きずられる私を見ながら、友達は遠くで「シャーク様(笑)ファンの子達に闇討ちされんなよー!」と笑いながら叫んでいた。





 屋上に着くと、シャークはフェンスに体を預けてため息をついた。そんな些細な行動でさえも、私はビクビクしてしまう。
 そういえば、最近のシャークは丸くなったと聞いた気がする。暴力的な彼は、もう昔の彼となったのだろうか。

「山田…」
「はいっ!?」
「人ってどれくらいの力で殴ったら記憶が飛ぶんだろうな…」

 札付きシャーク健在じゃねーか!誰だよ丸くなったとか言ったやつ!

「俺の為に記憶喪失になれ…!」
「待って待って!絶対誰にも言わないから!九十九遊馬くんとシャークが付き合ってることは絶対言わないから!」
「はぁ?べ、別に遊馬とはまだそんな関係じゃねぇよ!」
「……まだ?」

 シャークはしまったと言わんばかりに失言した口を押さえた。

「え…?でもしてたよね?」
「あれは…その……遊馬が…」
「?」
「可愛くってつい…」

 頬を赤らめた目の前の不良は、ただの恋する中学生男子だった。



12.10.11
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