愛してる。大好き。そんなありきたりな言葉は、何十年と生きている中で何度も聞いたし、聞き飽きた言葉だ。
 中には結婚しようとか言い出す変なやつもいたが、こんな変態は長いこと生きてきたのに初めてである。

「十代さん、俺を十代さんにチューニングさせてください」
「お前本当は馬鹿なんだろ」
「ええ。きっと俺は十代さん馬鹿なんでしょうね」
「照れるな、赤くなるな、涎を垂らすな」

 握られていた手を勢いよく振り払うと、遊星は目で分かるくらいしょぼんとした。いつもは生きの良い蟹頭が、ちょっとだけ垂れた。
 そんな落ち込み様もつかの間、すぐ元気になる。今度は肩を掴まれた。

「十代さん…俺は貴方を見ていると喉が締め付けられ、心臓が飛び出すかと思うくらい動悸し、息をすることすら苦痛に感じます」
「お前もっと別の表現があっただろ。ホラーかよ」
「つまり、十代さんが好きすぎて生きていることが辛いということです」

 そう言うと、遊星はそのまま俺を強く抱き締めた。この抱き締めてくる腕の力も、体温も、遊星から感じられる早めの鼓動も、全て数えられないほど感じてきたはずなのに。

 胸が痛むんだ。その痛みは手のひらで胸を押さえても変わらず、やがてその痛みは全身をむず痒くさせる。
 こうやって抱き締めてもらえることで、全身のむず痒さは消えるが、胸の痛みが増す。

 痛い。痛い。
 痛みから逃れたくって、遊星の背中に腕を回し、遊星の体を自分に強く押し当てた。

「十代さん、痛いです」
「俺の痛みだ。受けとれ」

 ばっと顔を上げて、油断していたその口にかぶりつくようにキスをした。
 ちょろっと舌を入れただけですぐに唇を離したが、遊星の顔は真っ赤で、だらしなくポカンと口を開けていた。

 愛してるだなんて言ったら、こいつは本当に死んでしまうのではないだろうか。


12/10/16

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