※カイト登場してすぐくらいの話


「なぁカイト、口笛教えてくれよ」

 それは前触れもなく投げ掛けられた。

 オービタルの調子が悪くなったせいで、今日は強制的にMr.ハートランドから休暇をもらった。一刻も早くナンバーズを集めなければならないのだが、オービタルがいないことにはそれは全くできない。使えないやつだ。
 だから久しぶりにハルトとゆっくり話でもしようと思ったのだが、案の定はっきりとつまらないと言われ、今日は厄日だと思いながら一人で外をぶらついていたら九十九遊馬と遭遇した。
 オービタルを連れていないのを見てナンバーズ回収目的でないと思ったのか、九十九遊馬は笑顔でこちらに駆け寄ってきて、急に口笛を教えろと言われた。今ここだ。

 あれだけ負ける恐怖や憎しみを与えたというのに、目の前にいる九十九遊馬はまるで友人と接しているかのような態度をとっている。こいつ自身に興味がない分、こいつの考えていることが理解出来ない。

「なんだ急に。口笛も出来ないのか」
「口笛くらい出来るっての!俺はカイトみたいに上手く吹きたいだけだって!」
「くだらない。オレはそんな事をしている暇なんてない」
「……今日はあのロボット、連れてないんだな」
「う…」
「やっぱり今日暇なんだろ!」
「違う!そうだとしてもお前に付き合う義理はない!」
「そんな堅いこと言うなよー。ちょっとだけだからさ!なぁ!」

 分かってはいたが、こいつはしつこい。この調子だと、断り続けても日が暮れるまで続くだろう。口笛を教えることに時間を使うのも嫌だが、このやりとりに一日使うことのほうがもっと嫌だ。

 深くため息をついてから、オレが吹いているのを聞いて、感覚でやってみろと言うと、途端に笑顔になってヤツは大きく頷いた。

 とにもかくにも、口笛を吹けば大人しくどこかへ行くだろう。

「……」
「ほら、もう十分だっ…」

 それはほんの一瞬だったかもしれない。九十九遊馬の顔がはっきり見えるくらいに顔が離れてやっと、何をされたのか分かってしまった。分かりたくもなかった。

「カイトって顔も唇も綺麗なんだな!」

 九十九遊馬の笑顔に、触れあった唇が熱を帯びた気がした。



12/10/16
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