※学パロ

「十代さん、帰らないんですか?」
「動きたくない」
「寮はすぐそこなんですから……」

 夕日に照らされた学校の部室で遊星はほとほと困り果てていた。最終下校時刻はとっくに過ぎている。だが、部活の先輩である十代はデュエル用の机に座って机にうつ伏せになったまま動こうとしない。何かしているわけでもなく、ただうつ伏せになっているだけなのだ。
 部室の鍵と十代を置いて先に帰ればいいだけなのだが、それはできなかった。

「先に帰りますよ?」
「駄目だ」

 先に帰ると言うと引き留められる。一緒に帰ると言うとまだ帰らないと言う。
 十代が一体何をしたいのか分からず、遊星はため息をついた。自分は寮生ではなく自宅生であるため、早く帰らなくては家の夕飯が遅くなる。次第に腕時計を見る間隔が短くなり、流石の遊星も我慢の限界が来ていた。

「遊星は…」
「…はい?」

 十代はそこまで言うと、先を言わずにじっと遊星の目を見つめた。口を小さく開いたり閉じたりして、何か言いたげな様子をしている。何かと問いかけようとした途端、部室のドアが勢いよく開けられた。

「不動遊星!下校時刻はとっくに過ぎてるぞ!さっさと帰れ!」
「……なんだ牛尾か」
「チッ…。生徒指導部が来たんじゃあ仕方ねぇ。帰るか遊星」

 先ほどまで全く動かなかった十代はてきぱきと帰る支度を済ますと部室を出て施錠し、鍵を牛尾に押し付けて逃げるように昇降口へと向かった。

「ちょ、ちょっと十代さん!」
「ん?何」
「何、じゃありませんよ……。何なんですか。帰らないって言っていたのに、牛尾が来た途端急に帰るって言い出して…」

 十代はまた何か言いたげに口を開いたが、ふっと笑うと遊星の手を引いて歩き出した。

「遊星、ゆっくり帰ろうぜ」

 寮はすぐそこだと遊星が言うと、十代はすぐそこだからだと答えた。
 遊星は十代の考えていることが分からず、素直に手を引かれていった。



13/02/10
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