※学パロ

 自転車の荷台に女の子を乗せて、他愛無い話をしながら帰る放課後。重くないかと聞かれ、ちょっと重たいだとか言ってからかったり。腰に回された腕にどきどきしたり。そんな夢のような青春を味わいたいと、誰しもが思ったことだろう。

「まさか初めて乗せるのが男だとはな」
「何か言ったか?」
「いんや。何も」

 ヨハン・アンデルセンもそんなことを夢見る男子高校生だ。今彼はそのシチュエーションに出会っている。だが、それは夢に見たような青春の一ページとは似ても似つかないものであった。
 ヨハンが漕ぐ自転車の荷台に座っているのはスカートを履いた女子生徒ではなく、自分と同じ制服を着た男子生徒、不動遊星である。
 なぜヨハンが荷台に遊星を乗せているのか。それは、今日の掃除時間のことであった。親友の遊城十代とふざけ合っていたところ、たまたま通りかかった遊星を巻き込んでしまい、足を捻挫させてしまったのだ。担任のクロノスにこっぴどく叱られ、責任を取って遊星を家まで送り届けろと言われたのであった。自転車の二人乗りは違反ではないかと思ったのだが、そう言うとまた話が長くなるためヨハンはその場で言わなかった。
 ヨハンがその事に対して乗り気ではない。一つは、初めての二人乗りの相手が男であるため。もうひとつは、ヨハンが遊星は自分の事を良く思ってないのではないかと感じているためである。

「足、痛いよな」
「……少しな」
「でも遊星も男だしすぐ治るよな!男は根性って言うんだろ?」
「……ああ」

 続かない会話と素っ気ない返事に、ヨハンは小さくため息を吐いた。ヨハンは遊星のようなタイプが苦手である。物静かで何を考えているのか分からない。こうやって会話が続かない状況になっているのも、遊星が自分と話したくないためなのではないかとヨハンは思った。
 ヨハンは相手が十代だったならば、と思い頭の中で想像の会話を繰り広げ出す。そうして自分のテンションを上げようとしたところ、ふいに制服を引っ張られる。

「……着いた」
「え?……あ、そうか」

 遊星の家の前で自転車を止め、前カゴに入れていた遊星の鞄を取り出す。遊星は「置き勉」というものを知らないのか、鞄はヨハンのものと違ってずっしりと重みを持っていた。それを両手でしっかりと持ち、すでに自転車から降りていた遊星に手渡す。

「今日は悪かったな遊星」
「……いや」
「じゃあまた明日な」

 ヨハンはそう言ったものの、本当は出来るだけ関わりたくない。遊星にどう接すればいいのか分かっていないためである。数少ないであろう遊星との会話が、今やっと終わることを少し喜んでいるくらいである。
 自転車のペダルにぐんっと力を入れようとした時、また制服が引っ張られた。遊星が無表情でヨハンの制服を掴み、じっとヨハンを見つめていたのだ。まだ怒っているのかと思い、ヨハンは口を開こうとした。

「送ってくれて、ありがとうな。……嬉しかった」

 そう言って遊星は笑うと、ヨハンの制服から手を離してそそくさと家に入ってしまった。
 初めて見た遊星の綺麗な笑みと、一瞬見えた真っ赤な遊星の顔を見てしまったヨハンは、五月蝿く鳴る心臓は自転車を漕いだせいだと強く自分に言い聞かせていた。

13/03/07
main top