どうやら零は「バリアン」だとか、僕が理解できない世界の住民らしい。最初は信じられなかったけれども、最近はなぜだかこっちが彼の通常なのだと思うと、それを信じてしまう時がある。

「大介、今日も遅かったんだな」
「……ただいま」

 本当はちょっと慣れない。付き合ってすぐの頃、零は自分のことを僕と言っていたし、僕に対して敬語を使っていた。僕を呼ぶ時は「大介さん」と可愛らしく呼んでくれていたのだが、今ではその可愛らしさが夢だったように豹変している。
 こうなってしまったのは、僕のとある夢を零に話したからだった。それはハートランド学園で暴力的なデュエルを零相手にしていた夢だ。しかも零だけでなく、零の友人にまで。僕が零相手になんてとてもじゃないがあり得ないことであって、その事を零に話した。怖がるものかと思ったのだが、零の態度が一変して「バリアン」だとか色々説明されたのだ。そして今に至る。

「疲れが溜まっているようだな。先に風呂に入ってはどうだ。夕飯はどうする?」
「夕飯は外で済ませてきたから、先に寝てていいよ」
「そうか、なら先に休ませてもらう」

 まるで新婚夫婦のような会話。こっちの零でなければ気軽にそう言えたのだろうが、こっちの零に対してそんなことを言ったならどうなるのか想像がつかない。
 今の零はどこか冷たいというか、僕が未だに慣れないせいか、少し疎遠になっている気がする。零がどんな性格であったとしても零に変わりないのだから、そこを受け止めてあげなければならないのにどうして上手く出来ないのか。



 風呂から上がった頃はすでに日付が変わっていた。音を立てないようにゆっくり寝室のドアを開けると、ベッドには一つの山が。規則的に動いている様子からすでに零は眠っているようだ。起こさないようにゆっくりとベッドに横になり、肩の力を抜く。やっと一息つけた。
 そういえば零とは恋人らしいことをしてやれていない。それは仕事の都合上ほとんど会えないというのが理由である。
 背を向ける零の髪をそっと撫でる。腕が寂しい。これ以上零に触れていると、自分の制止の気持ちを越えて抱き締めてしまいそうになってしまう。

「……寂しいだとか、君は思わないのかな」
「えらく大きな独り言だな、大介」

 まさか返事が返ってくるとは思っておらず、意味をなさない変な声が出てしまった。それを聞いた零は体をこちらへ向けてくすくすと笑う。

「触りたいなら触ればいいだろう。何なら襲ってくれてもいいんだぞ」
「僕が本当にそうしたらどうするんだい」
「そうだな……適度に嫌がってもいいが、素直に受けてもいいぞ。大介はどっちがいい」
「あのねぇ…」

 零が笑いながら言うものだから、からかっているようにしか思えない。そう思うと、少し大人げないが、からかい返してやろうという気がふと起こってしまった。
 何も言わずに零の腕と腰を引き、余裕をかましていた口に深く口付けをした。そう言えば最後にキスをしたのはいつだっただろうか。まるで最後の口付けを味わうかのように零の口内を隅々まで犯す。
 零に胸を軽く叩かれて唇を離すと、零の息は上がっていた。だいぶ前に鼻で息をするように言ったのだが忘れてしまっていたのだろうか。その事を伝えると、零は違うと言って激しく首を横に振った。

「だっ、大介が……急に、こんなことするから……眠れなくなったじゃないか…」

 部屋が明るかったなら余裕のない零の顔が見られたのに。また今度でいいかと思って零を組みしいた。
 明日起きられるだろうか。明日も仕事があるんだが。

13/03/05
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