※この文章には中学生がお酒を飲む表現があります。お酒は二十歳になってから。

 濡れた髪をタオルで乱雑に拭いていた大介の手が思わず止まった。
 大介は男同士の恋愛という点に対して問題視しない。だが、二人の年齢に対しては問題があると思っていた。大介は大人であるが、零はまだ中学生である。手を出してしまいたくなる時は度々あったが、その度に中学生に手を出すことは流石に問題があるだろうと抑え込んできたのだ。
 一方零は健全な中学生男児であるが、そういったことに興味があるような仕草を全く見せなかった。自分さえ耐えれば事を起こさないであろう。そう思っていた大介は完全に油断していた。

「あ、大介さん。お湯加減はどうでしたか?」

 ソファに座り、肩越しに見せた零の笑顔はいつもと違う。妙に上機嫌で心なしか頭がふらついて見えた。
 しかし零の顔がほんのりと赤い事に気づき、大介は真月が持つ缶を見て身体の熱が引いていくのを感じた。

「れ、零!?これ……酒じゃないか!」

 零の手から酒の缶を奪い取る。すると零はへらへらと笑いながら腕をだらしなく伸ばしてきた。酒の缶はすでに軽く、中身は半分も残っていない。
 どうやら冷蔵庫に入れていた酎ハイを勝手に飲んでいたらしい。完全に酔いが回っている様子の零を見て大介は頭が痛くなった。

「零、 なんでこんなものを飲んでいるんだい…?」
「……だって、大介さんが何もしてこないから」

 大介の質問に零は唇を尖らせながら答えた。しかし大介は零が言ったことが理解出来ずに首をかしげる。それを見た零は眉間に皺を寄せた。先ほどまで上機嫌であったのに、零は別人のような鋭い目つきで大介を睨む。

「僕は大介さんとキス以上のことがしたいんです。僕ってそんなに魅力ありません?まだ子どもだから大介さんは僕に手を出してくれないんです?」
「そういうことか……あのな、零。君はまだ中学生だろう?僕は君が二十歳になるまで待つつもりでいるんだ」
「……分かりました。じゃあ僕が動くんで横になってください」

 そう言うと零はソファから降り、少し危なげな足取りで大介の元まで来ると抱きついて大介を押し倒した。背中を硬いフローリングに打ちつけられた大介は痛みに顔をゆがめたが、零はそんなこともお構いなしのようだ。
 大介が制止の声をかけても零は止まらなかった。制服のネクタイに手をかけ、遠くへと投げ捨てる。そしてにっこりと笑いながら片手で制服のボタンを外してゆく。ほんのりと赤くなった恋人の肌を前に、大介は自分の理性を止める事に必死であった。

「ねえ知ってます?お酒に酔った大介さん、すごく色っぽいんですよ?」

 笑いながらそう言うと、零は大介の唇に噛みつくようにキスをした。一方大介は零の言葉で確信した。零は酒を飲んで色っぽくなれば大介が手を出してくれるものと考えたのだろう。安易な考えであるが、それならばなぜ零がこんなに積極的に誘ってくるのかということも分かる。
 大介がキスの雨を被りながらそんなことを考えていると、零は大介の服に手を掛け始めた。それに気づいた大介は慌てて零の手を掴んで止めた。零の手は素直に止まり、抵抗してくるものと思っていた大介は妙だと思って零の顔へと視線を向けた。

「……あ、頭が、ふらふらして……気持ち悪い…胸が、ムカムカして、ます……」

 上機嫌の顔とは打って変わって、零の顔は今にも吐きだしそうな顔をしていた。ひとつの余裕もないのか、零は何も言わずに大介に被さるように横になった。しばらく眉間に皺を寄せて唸っていたが、しばらくするとだいぶ落ち着いてきたのか、今度はそのまま眠ってしまった。
 零の可愛らしい寝顔が眺められるという美味しい状況であるが、その気になっていた既のところで止められてしまった大介は生き地獄だと呟いた。



13/02/18
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