「煙草って美味いの?」

 そう遊馬にいわれたのは、一週間ほど前だった。
 遊馬と付き合いだしてから学校へ行くようになったが、相変わらず授業もクラスの連中も面白くない。かといって、前のように妙な連中とつるむのも面白くない。

 つまらない日常。つまらない毎日。

 いつも変わらない日々を送っていた俺をかき混ぜたのは遊馬だった。
 昔の自分が今の自分を見たらどう思うだろうか。きっと、そんなくだらねぇもん捨てちまえと言うだろうか。気持ち悪いと顔を引きつらせるだろうか。
 昔の自分がどうだったか思い出せないくらい、今の自分は遊馬に変えられた。

 遊馬に変えられた証である一つに、煙草を止めた。遊馬が煙草に興味を持ったからだ。
 遊馬は自分と違って健全な中学生男子だ。俺のように道を外してほしくない。

「口が寂しいな…」
「あーっ!シャークまた授業サボってたな!」

 大きな音を立てて、屋上の扉が開かれた。遊馬がここへ来たということは、もう昼休みに入ったということだ。遊馬の両手には昼飯が入った包みが二つある。
 ちゃんと授業受けろよ!と言いながら片方の包みを俺に渡すと、遊馬は俺の横に座ってもう一つの包みを開いた。
 遊馬はいつだって美味そうに飯を食う。それを盗み見していると、なぜか自然と頬がゆるむ。今日も遊馬は笑顔で箸を進めている。いつも遊馬と一緒にいる女子なら、もっとゆっくり食べろだとか言うかもしれないが、俺はこんな遊馬でさえ可愛いと思ってしまう。

「遊馬、こっち向け」
「ん?何シャー…」

 ちゅっとリップ音を鳴らして遊馬にキスをした。すると遊馬は弁当と箸を持ったままぽかんと口を開け、俺を見つめた。正確にはこれは固まっているのだろうが。
 その様子をじっと無表情で見つめていると、遊馬の顔はみるみる内に赤くなり、口をあわあわと動かしだした。

「きゅ、急に何すんだよ!」
「いい加減慣れろよ」
「今のは急にキ、キスしたシャークが悪い!」

 キスした口を覆う手を取って、今度は深いキスをした。たったこれだけのことで胸が満たされるほど、どうやら俺は遊馬に依存してしまっているようだ。



12/10/14
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