不動遊星は目の前の商品を見て悩んでいた。
 それは一見するとただのふざけたものだ。それを持っている人を見ると、たとえ相手が見知らぬ人だったとしても少し笑えるものなのかもしれない。
 遊星はそれを見つけた時にふと浮かんだ発想を実行すべきかどうか迷っている。

「……」
「ありがとうございましたー」
「……ああ」

 そっけない返事をし、遊星はそそくさと店から出ていった。だが、有名であるチーム5D'sの不動遊星ということもあってか、店員は遊星が店を出るまで笑いを堪えていた。





「おかえりー」
「……ただいま、十代さん」

 デッキの調整をしていた十代は遊星の顔を見ずにそう言った。だが、帰ってきた人物が恋人だと分かると、持っていたカードをテーブルに置いて遊星に近づいた。

「おかえり、遊星」
「はい…ただいま」

 十代が目を合わせてそう言ったものの、遊星は二回目のただいまを言うとすぐに視線を反らした。
 付き合ってしばらく経つというのに初々しく見えた遊星の行動に、可愛いなと十代は思うのであった。

「……十代さん、後ろを向いてくれませんか」
「え?何だよ」

 そう言いながらも、十代は素直に遊星に背を向けた。
 何をするつもりなのか。こういうシチュエーションだと、ネックレスのプレゼントであったりだとかする。十代は期待で頬が緩んだ。
 しかし、そんな期待は儚く崩れるものだった。

「いってえぇえええっ!?」

 急に十代の背中を襲った一撃。遊星は十代の背中を手のひらで叩いたのだ。

「あ、すいません。つい力が」
「〜〜っ!なんだよ!何したんだよ遊星!」
「えっ……なんでもないです」

 ふいっとそっぽを向くと、遊星は逃げるようにして二階へ上がった。
 背中を叩かれただけで、甘いムードなんて欠片もなかった。遊星にそういったものを求めていた自分が馬鹿だったと、十代は一つため息をついてカードが広がる机に戻った。

「あれ?十代さん、上着に何かついてるよ?」
「あ、悪い。取ってくれねーか?」
「誰かさんからのメッセージみたいだから、十代さんが取った方がいいと思うよ」

 ブルーノはにこにこしながら二階へ上がった。遊星もブルーノの一体何なのかと思いながら、十代は上着を脱ぐ。赤いジャケットの後ろを見て、十代は顔を真っ赤にして上着に顔を埋めた。
 真っ赤なジャケットにぽつんとあるのは、『俺専用』と書かれたシールであった。

「〜〜っ!……あの野郎…!」

 ジャケットを握りしめながら十代は遊星がいる二階へかけ上がった。



13/01/20
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