ガタン、ガタン…

 数人の乗客を乗せて電車は走る。先ほどまでは慣れ親しんだ町の景色が外を流れていたが、今はもうそんな影すらない。遠くに山が見え、冷たい建物より温かい草木がだんだんと多くなっていく。

「今どの辺?」

 遊馬は向かいの窓の向こうを眺めながら、隣に座る凌牙に言った。今にも眠りそうになっている凌牙は先ほど通過した駅と、この電車が次に停車する駅の間と答える。呆れた遊馬は黙り、再び窓から遠くの景色を眺める。
 平日の昼前。この時間は学校と仕事の真っ只中である。だが遊馬達が学校の教室ではなく電車の中にいる。乗客は制服姿の彼らを嫌そうな目で見るがいるが、誰一人として声をかけなかった。

「シャーク、何処へ行くんだ?」
「さぁな」

 そしてまた沈黙が訪れる。シャークが連れてきたくせにと遊馬は呟くが返事は返ってこなかった。

 今朝のことだ。学校へ行くはずだったのだが、凌牙は遊馬の手を引いて電車に乗り込んだのだ。遊馬は何かと聞いたが、凌牙はたまにはこういうのも良いだろとしか返さなかった。

 ガタンガタン。
 電車は行く先を決めていない彼らを乗せて、ハートランドからどんどん離れてゆく。

「駆け落ちしてるみたいだな、俺達」

 遊馬の呟きに凌牙はやっと反応した。隣に座る遊馬の顔を少し驚いた表情で見ていると、遊馬はにっと歯を見せて笑う。

「なあ、俺達やっぱり認めてもらえないかな」
「…厳しいだろうな」

 凌牙の妹の璃緒は二人の関係を知っているし、むしろ喜んでいる。荒れていた頃の凌牙を心配していたから喜んでいるのかもしれないが、璃緒は認めてくれている。
 後は遊馬の姉と祖母である。両親は行方不明であるため、今は置いておく。
 きっと遊馬の家庭は認めてくれないだろう。だから、今二人きりでいられる時間が大切なのだ。

「もし、認めてもらえなかったら」

 ぎゅっと凌牙の手が遊馬に握られた。電車のシートにつけていた手の上に乗せられた手から伝わる体温ですら愛しいと思える。

「俺と、駆け落ちしねぇ?」

 まるでプロポーズのような言葉に返事をすることなく、二人は重ねた手を一度ほどき、指を絡ませて強く握った。
 幸せで不幸せな二人を乗せた電車は、二人を見知らぬ場所へと運んでいった。



13/01/16
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