「遊星って本当に何でもできるよな」

 目の前に出された夕飯を見てヨハンはぽつりと呟いた。つけていたエプロンを外す手が一瞬止まり、遊星はどこがですかと言いながらヨハンの向かいに座る。

「作る飯美味いし」
「クロウのほうが圧倒的に美味いです」
「機械強いし」
「ブルーノのほうが専門的な知識を持っています」
「デュエル強いし」
「俺なんかまだまだです」
「褒めてるんだからそんなこと言うなよ!」

 人に褒められた時、そんなことないと言う事は遊星にとって当たり前であるのだが、異国育ちのヨハンにとってそれは腹の立つことだったらしい。遊星はヨハンが怒鳴ってからそれに気づき、一言謝った。
 相手が好きな人であるとはいえ、好きなものを批判されてヨハンは不機嫌そうな顔をしている。口をとがらせ、遊星の少し横へと視線が行っている。

「一番かどうかって話じゃない。出来るか出来ないかって話だよ」
「はぁ…」
「あー良いなぁ。お前が羨ましいぜ」

 出来すぎだぜと言い、夕飯のトマトリゾットを口へ運ぶ。ヨハン好みの味だったのか、少し不機嫌だった顔が一瞬にして緩む。いつものように美味いと言い、幸せそうな顔で黙々と手を動かす。
まるで子どものように幸せそうに食事をする姿を、遊星がじっと見ていることなど知らずに。

「……俺にも出来ないことくらいありますよ」

 がたんと椅子を鳴らして突然遊星は立ち上がった。ヨハンは口に運びかけたスプーンを途中で止める。
 遊星が出来ないこととは何なのかと言おうとした口は、遊星によって塞がれた。片手はテーブルに、片手はヨハンの顔を動かないように固定する。あまりに突然のことで頭がついていかず、スプーンを持ったまま硬直してしまった。
 触れるだけのスタンプキス。それだけであるというのに、ヨハンはまるで初恋が実った時のようにどきどきと心臓を鳴らしていた。
 少し唇を離してあわあわと小さく口を震えさせるヨハンを見ると、遊星はくすりと微笑んで口を開く。

「貴方を前にすると冷静じゃいられなくなってしまうこと、とか」
「っ……キザ野郎」
「舌入れてほしかったんですか?」
「行儀が悪いぜ遊星」

 じゃあ後でヨハンさんの味を堪能しますと言うと、大人しく椅子に座って食事を始めた。
 その後食べた夕飯の味をヨハンは思い出すことが出来なかった。



13/01/13
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