女性の匂いというものはどうも苦手で、だからと言って反対に男性の匂いのほうがいいのかと言われればそうではない。
女性の匂いという表現が悪いのだろう。凌牙は香水の匂いが好きではないのだ。甘い匂いや、花の匂いなど、時には良い匂いなのか理解に苦しむ匂いなど。

「お前は良い匂いするよな」
「シャークなんか変態っぽい」

 そう言う遊馬は凌牙の腕の中で嬉しそうにほほ笑んだ。遊馬の首に顔をうずめながら、肺を満たすように凌牙は遊馬の匂いをゆっくり吸う。

「くすぐったいぜシャーク」
「んー……」

 曖昧な返事をした凌牙を妙だと思い、遊馬はゆっくり首を回した。凌牙の髪が首を撫で、くすぐったさに遊馬はひっと息を飲んだ。肩がびくりと上がり、その衝撃で凌牙の頭が遊馬の肩からずり落ちた。慌てて体を反転させ、遊馬は凌牙を抱きとめた。抱きしめた凌牙の顔を見てやっぱりか、と遊馬は呆れ顔をする。

「すー……」
「寝てるし…」

 瞼を閉じ、薄く口を開けて凌牙は寝ていた。さっきまで普通に会話をしていたのに、どうしてすぐ寝れるのか。だが、凌牙がこうして寝ているということは、遊馬に対する信頼の証なのだろう。初対面の頃はあんなに仲が悪かったと言うのに。
 凌牙が寝ているのを良い事に、先ほど凌牙が遊馬にしていたように、遊馬も凌牙の首に顔をうずめた。そうして凌牙の匂いをゆっくりと吸う。
凌牙のように自分から進んですればいいのだが、凌牙が起きている時は凌牙の目が気になって落ち着くことが出来ないのだ。そのため遊馬は、凌牙が寝ている時だけ凌牙の匂いに酔いしれることができる。

(馬鹿だよな。……可愛いけど)

 凌牙は薄らと目を開け自分に抱きつく遊馬を一目見ると、寝ぼけたフリをして遊馬を強く抱きしめた。




12/12/30
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