最近久しぶりに二人っきりで出かけた時に、遊星はふと気付いた。ふと真横を見ると、そこには十代の顔がある。もっと細かく言えば、遊星の目の横には十代の目があるのだ。

「……うん。で?」
「つまりだな……俺と十代さんの身長はほぼ変わらないということだ……」

 眉間に皺を寄せ、窮地に立たされているような顔で相談があると言われたため、真剣に話を聞いた自分が馬鹿だったとクロウは頭を痛ませた。
 身長が一緒。だからなんだというのだ。何の問題があるんだ。そう聞く前に、遊星が1人で語り始めた。

「身長がほぼ変わらないなんて……普通彼氏というのは彼女より身長が高いのが標準装備じゃないのか!?それなのに…俺は十代さんと変わらない身長……毎日牛乳を飲んでいるというのに…どういうことなんだ……っ!」

 つまり、遊星は身長を伸ばしたいと思っているらしい。十代はすでに二十歳越えているであろうから、もう身長は伸びることは絶対ない。しかし、十八歳の遊星もこれ以上身体が成長するとは思えない。

「遊星。そればっかりは諦めろ。俺なんかもっと小さいんだぜ?」
「そこでだ、俺は考えた」
 今まで床を見ていた顔をあげて、急にいつもの調子で遊星は話し出した。その態度の変わりようにもうクロウは慣れてしまったかのように、はいはいと受け流した。
 そんな遊星の態度も気にせず、遊星はすっと机の下からブーツを取り出した。それを机の上に置きかけたため、クロウは素早く制止をかけた。それに対して未使用だから大丈夫だと遊星は言うが、そういう問題ではない。クロウはいつも食事をする為に使う机にブーツを置かれては困るため、そのブーツを受け取った。
 見た目は何もおかしくないブーツ。遊星が今履いているものと変わりないし、底が厚いというわけでもない。

「これがどうかしたのか?」
「やっぱり気づかないか。これなら大丈夫そうだな」

 クロウの質問に答えもせず、遊星はクロウの手からブーツを取り返した。そしてその場でブーツを履き替える。そのマイペースな行動に怒りを示すこともなく、クロウは慣れたように黙って遊星を見ている。履き終えた遊星はその場に立ち、どうだとクロウに言った。

「……いや、特に変わってねーと思うけど…」
「今俺が履いているのはシークレットブーツというやつだ」

 シークレットブーツ。それは、靴底の踵部分を数センチ分厚くすることにより、履いた人の身長を高く見せたり、足をより長く見せる機能をもつ靴のことだ。ハイヒールやロンドンブーツと違い、外見は普通の靴にしか見えないという特徴を持っている。それを聞き、クロウはまた妙な物を作ったなと小さくため息をついた。
 遊星はさっそく十代を呼んだ。すると十代は二階から駆け下りてきて、遊星の元へと駆け寄ってくる。遊星は十代の片腕に抱きつくと、十代を横へ並ばせた。

「どうだクロウ」
「……あー。そうだな。たしかに高い」
「何が?」

 突然話の途中に呼ばれた十代はやはり二人が何を言っているのか分からず、遊星とクロウの顔を交互に見て説明を求めた。遊星は十代の彼氏として、作ったものであるが身長が伸びたことが嬉しいのか、内緒ですとだけ言っていつもの機械いじりの作業へ戻っていった。

「……何だったの?」
「あー……実は、」

 クロウは遊星が内緒だと言った内容をいとも簡単に暴露した。本当は話の最初からお前が身長について悩むなと思っていたのだ。ただ、それを顔や口に出さなかっただけである。遊星が考えていたことについて暴露するついでに、クロウは思いの内も十代に話していた。

「へぇー。遊星って変なところあるな」
「俺の方が身長にコンプレックスあるっつーのに……」
「まぁまぁそんなに気にするほどでもねーって!俺の仲間に同い年だけど身長150cmのやついたからよ!それに、」
「それに?」
「身長なんて、押し倒しちまえば関係ないだろ?」

 いたずらを思いついた子供のような悪い顔をした十代は、今晩が楽しみだなとうきうきしていた。
 それに対してクロウは、明日の朝は遊星を起こしに行かないと心に決めていた。



12/12/28
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