※必要ない学パロ

 自分が好きではなかった。
 自信も持てないし、こんな自分を好きになってくれる人などいないと思っていた。もし告白されたとしても、それはきっと相手の本心ではないのだろうと思っていた。
 だから、お前が好きだ、なんて言われたから、何かの罰ゲームでも受けているのか、と言って、なんでヨハン先輩がそんな悲しそうな顔をするのか俺には分からなかった。

「それはお前が悪い」

 十代先輩にそう言われ、疑問しか浮かばなかった。どうしてだろう。俺の言葉で傷つくのは俺だけなのに。
 何が悪かったのだろうと考えていると、十代先輩は俺が何を考えているのか察したのか、大きなため息を吐いた。そして手に持っていたペットボトルのジュースを一口飲むと、向かいに座る俺の目を睨むように見つめてきた。

「いいか遊星。お前は良い奴だ。頭もいいし、スポーツも出来る。それにカッコいい。すげえ奴だ」
「……そんなことないです…俺なんて…」
「それ!」

 十代先輩は人差し指を俺の目の前に突き出した。驚いて思わず背中が仰け反る。十代先輩は指を下すことなく、顔を近づける。

「それだ、お前の唯一の欠点。自虐的なところ」
「……?」
「はぁ……。なぁ遊星。お前はそれでいいかもしれない。でも、今回お前がヨハンに言ったことは、ヨハン自身も傷つけたんだぞ」

 それを聞いてさっと血の気が引いた。それは知らず知らずの内にヨハン先輩を傷つけてしまったことに対する悲しみか、それともヨハン先輩や十代先輩に悪く思われてしまったことに対する恐怖か。それよりも先に申し訳ない気持ちが生まれ、十代先輩と目を合わせる事が出来ない。ぱっと視線を反らすと、ひとつ遅れて十代先輩が離れた。

「そうかー遊星は俺の事嫌いなのかー。そうだよなー。こんな口五月蝿い先輩なんて、好かれるわけないよなー」

 手を頭の後ろで組み、椅子に背中を預けながら十代先輩はそう言った。自暴自棄なその態度に唖然とした。十代先輩は普段明るく振る舞い、同級生はもちろんのこと、先輩後輩からも信頼を得ている。もちろん俺もその一人であり、尊敬もしている。

「嫌いなわけありません!俺は十代先輩を尊敬してます!」
「いや、そんな無理して嘘つかなくったって良いんだぜ?正直になれよ」
「だから……俺は…っ!」

 ぐっと喉が締まった。十代先輩は相変わらず投げやり状態。何を言っても信じてもらえない。どうすれば俺の気持ちが伝わるのだろうか。彼に誤解されたままでいるのは辛い。どうすればいいのか分からなくなり、黙って俯くしかなかった。
 今なら分かる。もしヨハン先輩が言った好きという言葉が本当だったのなら、俺は今ヨハン先輩と同じ痛みを感じている。

「俺は、ヨハン先輩の気持ちを否定してしまったんですね……」
「分かった?オレの気持ち」

 後ろから回された腕と聞きなれた声にびくりと体が跳ねた。振り向くと、すぐ側にヨハン先輩がいた。いたと言うより、ヨハン先輩に椅子ごと抱き締められていた。
 いつからいたのだとか、それより先に謝るべきなのか、この状況をつっこむべきなのかとか考えていると、ヨハン先輩が笑った。その笑顔は俺の胸を高鳴らせた。

「もう一回言うぜ。好きだ、遊星。本当に、大好き」

 二度伝えられたヨハン先輩の気持ち。今度はそれを否定しなかった。ヨハン先輩の気持ちを素直に受け止めると、急に恥ずかしさがこみ上げた。俺はとんでもないことを言われているのだと気づき、顔が真っ赤になる。目を合わせづらくって俯くと、ヨハン先輩は少し屈んで、優しく唇を押し当ててきた。少しだけ触れた唇はゆっくりと離れていく。だが、俺にはそれがとても長く感じた。

「おっ、俺はまだ好きだなんて言ってませんよ!」
「あ、悪ぃ悪ぃ。ついノリでやっちまった」
「……ヨハン先輩。俺は、人を愛したことがありません。だから今、ヨハン先輩の気持ちに答えることはできません」
「……うん」
「で、でもさっきのは……嫌じゃ、なかったです」

 さっきのキスを思い出した途端、ヨハン先輩に触れた唇が熱くなる。胸もどくどくと激しく動き、動く度に喉が締め付けられる。
 それでも今度は目を反らしてはいけないとずっとヨハン先輩を見つめていると、みるみる内にヨハン先輩の顔が真っ赤になっていく。さっきまで余裕の顔をしていたはずなのに。

「遊星!オレ、絶対お前を振り向かせてみせるから!」

 そう言うやいなや座っていた俺の腕を掴んで立たせ、ダンスを踊るようにくるくる回り出した。実はさっきのがファーストキスだったのだが、嬉しそうなヨハン先輩の顔を見ているとこの人でもいいかもしれないと思ってしまう。

「ノロケならよそでやれ」

 十代先輩の顔は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



12/12/27
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