※TF5OPの流れに沿ってます

 WTGP。本当は参加する気なんてなかった。でも最近ネオ童実野シティに引っ越してきたばっかりであるし、いろんなやつとデュエル出来る機会だからと、渋々参加した。
 本当は、実家にいる母が「ただでさえ友達が少ないんだから」と言ってきたこともある。
 会場には色んなデュエリストがそろっている。子供から大人まで、幅広い年齢層の人が談笑をしている。引っ越してきたばかりの俺はというと、テーブルに並ぶ豪華な飯を一人寂しく食べている。デュエルでのコミュニケーションは得意なんだが、どうも言葉のコミュニケーションは苦手である。

「ほら、あそこの赤い帽子の奴とかさ」

 ふとどこかで、そう言った声が聞こえた。まあ俺のことではないだろうと思っていたが、今度は別の男の声が聞こえた。

「おい、そこのお前。そんなところに独りで突っ立ってないで、こっちに来い」
「……俺?」

というより、今度は確実に俺を呼んだ。見ず知らずの男三人の集団に呼ばれ、俺は料理が乗った皿を持ったまま、俺を呼んだ男達のところへ行く。
 おずおずと近づいていくと、金髪の男にさっさと来いと怒鳴られた。どうやら、俺を呼んだのは金髪のデカイ男のようだ。

「お、おいジャック…。悪いな、礼儀知らずで」
「いや、別に…」
「ここに来てるって事は、あんたもデュエリストなんだろう?オレたちもそうさ」

 隣にいたオレンジ髪の男は自己紹介をし出した。このオレンジの男はクロウ・ホーガン。さっきから一度も喋っていない男は遊星。そして、この金髪のデカイ男はジャックというらしい。
 クロウがジャックのことを「コイツ」呼ばわりしたため、その場で口喧嘩が始まってしまった。その光景をぼーっと見ていると、一度も喋っていない男……遊星がこちらへ寄ってきた。

「お前の名前は?」
「……ああ、小波だ」
「そうか、小波というのか。デュエリスト同士、遠慮はいらない、よろしくな」
「ああ……よろしく…。で、あいつらは…」
「ああ、ジャックとクロウの事なら気にしないでくれ。いつもの事だ」

 あれが毎日あるのか?大変だな。
 コミュニケーション力に欠ける俺は、ふーんと返してしまって会話は終了。二人揃って、治まりそうにない凸凹二人の喧嘩を眺める。
 喧嘩するほど仲が良いとは言うが、これはそういうわけでもなさそうだ。かといって、お互いに嫌っているわけでもなさそう。きっと、この三人は友達という関係ではないのだろう。だからこそこうやって喧嘩できるし、それを止める事もなくただ見ているだけでも平気なのか。初対面だから気がするだけだけれども。
 そういえば、故郷の友達は元気にしているだろうか。高校に入学してからずっと会っていない。高校の友達とも全然連絡を取っていないし…。用もないのに連絡するのはいかがなものかと思う。こう思っているから、小波はサバサバしてるなって言われるのか。

「まったく。相変わらず、にぎやかね…」
「アキ、来ていたのか」

 意識が一人の世界に行きかけた頃、今度は女性の声がした。どうやら遊星の知り合いらしく、二人でWTGPについて話し出した。そういえば俺はなんで呼ばれたんだ。この集団の中で完全に俺だけが浮いている。正直居心地が悪いのだが。

「なあなあ?十六夜はやっぱり、遊星と組むんだろ?」
「え、ええ。遊星さえ良かったら、私はあなたと…」

 いつの間にか喧嘩が静まっていたらしい。クロウがさっき来た女の子に話しかけていた。十六夜と呼ばれたその子は、顔を赤らめながら遊星の方をちらりと見る。ああ、この人は遊星のことが好きなのか。
 こんなに分かりやすい態度を取っているにも関わらず、遊星は、タッグパートナーはゆっくり考えて決めた方がいいと返した。遊星の真面目な返答に、十六夜って子はカチンと来たらしく、厭味ったらしい言葉を言った。

「……髪と一緒でトゲトゲしてるなぁ」
「ん?なんだって小波?十六夜が、何かトゲトゲしてるみたい?ああ、そりゃ…」
「よくぞ見抜いた。十六夜のエースモンスターは、ブラック・ローズ・ドラゴンだ」
「いや、そういう事じゃねぇだろ…」

 どうやらクロウは十六夜って子が遊星に片想いってことを知っているらしい。それに比べて、遊星とジャックはかなりの鈍感なようだ。全く気づいていない。分かりやすいのに。
 その後、クロウにぼーっとしているようで鋭いんだなって言われた。なんか、褒められた気がしない。

 その後も次々と遊星の仲間が話しかけてきて、俺は本当に帰ろうかと思い始めた。しかし、よし帰ろうと思ったところで俺の紹介をされてしまう。

「そういえば遊星、誰とタッグを組むか決めたのか?」
「いや、正直WRGPのことばっかりで考えていなかった」

 そういえば俺も何にも考えていなかったなーと思った。この中で組むなら、まずジャックは避けたい。第一印象から俺とは合わないなと思ったし。クロウは……意外とサドな雰囲気を感じられる。消去法というわけではないが、組むとしたら…

「俺は遊星と組みたいな…」
「え…っ?」
「え?」

 遊星がこちらを見てぽかんと口を開けている。何か言っただろうか。

「……あ、もしかして……出てた?」

 そう言うと、遊星は小さく頷いた。昔からの変な癖で、気を抜かすと考えている事が口に出てしまうのだ。やってしまったと思ったが、本音であるし隠す必要もないだろう。

「俺、遊星のこと好きだし」

 言い方が不味かっただろうかと思うには少し時間がかかった。
 ジャックにはそういう趣味のやつだったのかって誤解されるし、遊星は顔真っ赤にして何にも喋らないし。初対面でこんなこというのも変だろうけれど、遊星ってこういう顔もするのか。

「可愛いな」

 あ、また口に出てた。



12/12/25
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