ネオ童美野シティのとあるマンションの一室。そこで、不動遊星はほとほと困り果てていた。目の前で深い眠りについている小波がどうやっても起きないからだ。
 いつも赤い帽子を被り、目を見たことがない小波。寝ているときまで帽子を被っているものだから眠っているのか定かではないが、耳をすませば聞こえる寝息からやはり寝ているのであろう。

「小波、起きてくれ」
「……すー…」
「……はぁ」

 肩を揺さぶってみても、少し大きな声を出してみても彼は一向に起きる気配がない。
 やはり起きるまで待とうかとしたとき、布団の中が少し動いた。

「……」
「……小波?」

 布団に包まる人物の名前を呼びながら、遊星は小波の顔を覗き込んだ。
 少しずれた帽子から覗く目は薄らと開いており、初めて見た小波の目に遊星はどきりとした。目が合うと、小波は頬笑みながら遊星の頬へ右手を伸ばした。
 普段遊星より無表情な小波だが、寝ぼけているのか、無防備にも笑顔を晒した。

「ゆーせー…」

 遊星を呼ぶ声は甘く、初めて聞いたその声に遊星はまた胸をどきりと高鳴らせた。
 小波とは何カ月か一緒に過ごし、何度もデュエルをしているが、今まで見たことがない小波に遊星の胸の鼓動はどんどん大きくなってゆく。
 小波のペースに流されそうになった時、遊星は本来の目的を思い出した。小波を起こさなければと頭を切り替え、頬に触れる手を取って再び小波の肩を揺すった。

「小波、起きろ」
「んー?」
「小波」

 本当に目を開けているのかと、遊星はもっと顔を近づけた。すると、ばちりと小波の目が開いた。急に開かれた目に驚き、遊星の動きが止まった。小波も同じのようで、起きてすぐ目の前にあった遊星の顔を見たまま動かない。

「……何、この手」
「え?」
「や、俺の右手…」

 右手と聞き、遊星は気づいた。遊星は、小波が寝ぼけて伸ばしてきた右手を掴んだままであったのだ。手を取り、顔を近づけているこの状況。まるで寝ているところを襲っているようではないかと気づき、遊星は慌てて小波から手を離した。

「わ、悪い小波…。俺はただ、お前を起こそうと…」
「……別に、いいけど」

 俺、遊星のこと好きだし、と続けると、小波は遊星の手を引っ張った。完全に油断していた遊星は受け身を取ることが出来ず、小波にすっぽりと抱き締められてしまった。

「……ねえ。遊星って、恋人いる?」
「い、いや…。それより小波…」
「じゃあ問題ないよね」

 そういうと、小波は遊星の顔を両手で支えてキスをした。触れるだけのものだが、小波は味わうようにずっと口づけていた。
そんな小波を、遊星は突き放すことが出来なかった。正確には、遊星は戸惑っていた。小波にキスをされている事が嫌ではなかったのだ。遊星は小波を仲間として接してきた。だが、初めて見た小波の色っぽい目や甘い声に、胸を高鳴らせたのは新しい記憶である。

「……やじゃないの」
「……」
「…そう。やじゃないんだ」
「なっ、何も言ってな…!」
「遊星可愛い。好き。大好き」

 再び落とされたキスには遠慮も容赦もなかった。



12/12/19

main top