※社会人パロ 高校にあがり、大学へ行き、社会人にもなると、余計に中学時代の友人になど会わなくなる。 中学時代を過ごしたハートランドを去り、凌牙の青年期を知る者などいない地にも慣れた始めた頃、凌牙の中で昔の事が薄れ始めていた。だが、そんな中でもずっと輝きを失わないものはあった。 九十九遊馬。凌牙の後輩で、凌牙の仲間。あの時苦しんでいた凌牙を救ってくれた恩人でもあり、元恋人でもある。高校にあがると同時にハートランドと遊馬の元を去り、区切りをつけたのだ。あの時一度も体を重ねなかったことだけが、遊馬を正しい道へと戻らせた唯一の正しい判断であった。 常識の道を外しかけたこともあった凌牙であったが、そんな凌牙にも今は家庭がある。同じ会社の女性と恋に落ち、結婚して、子どももいる。そんな幸せを持ち、その家庭を支えるために働く凌牙であったが、この毎日に物足りなさを感じていた。 「……シャーク?」 この地でその名前を呼ぶ者などいないはずなのに、それは凌牙の耳にはっきりと届いた。 懐かしさと驚きを露わにした凌牙が後ろを振り向くと、どこかしっかりしたわりに幼さを残した懐かしい顔があった。 「やっぱり!シャークじゃねーか!」 「……遊馬?」 「うわぁー久しぶり!元気にしてたか?」 遊馬は、自分が声をかけた人物が凌牙であると分かった途端に、凌牙の手を取って上下に振った。大人になっても変わらない無邪気な笑顔で再会を喜ぶ姿は、やはり遊馬であった。最近どうしてるのか、たまには連絡くらいしろと遊馬は一方的に話していたが、自分が握っている凌牙の手を見て、一瞬動きが止まった。 「……シャーク、結婚したのか」 中学生だった頃の彼がつけていた指輪とは違うものを見て、遊馬はそう呟いた。その声に悲しみや喜びはなく、ただ現状を客観的に言っただけであった。 だが、凌牙はそう思えなかった。後ろめたいことではないはずなのに、左手の薬指にはめている結婚指輪が妙に重みを増したように感じた。 「遊馬…」 「なあシャーク、今時間あるか?せっかく会えたんだし、どっかで話そうぜ?」 そう言って凌牙の手を引く遊馬の左手には、同じく光る指輪がはめられていた。 凌牙が店で飲む気になれず、結局コンビニで酒とつまみを買い、凌牙の家で飲むことになった。凌牙の嫁と娘は実家の方に泊まるということだった為、今この家にいるのは凌牙と遊馬の二人だけであった。その為、二人とも誰にも気を使うことなく話が進んだ。 「なんで結婚披露宴呼んでくれなかったんだ?」 「そもそも式なんか開いてねーよ」 「えーっ!?お前の奥さんそれでいいのかよー!」 「俺じゃなくてあいつが言い出したんだ。そういうお前だって俺を呼んでないだろ」 「だって住所知らなかったんだよ!仕方がないだろ?」 お互いの家庭のことや、会社の上司の愚痴など、二人の話は尽きることがなかった。久しぶりに会ったこともあってか、凌牙の笑みも自然と増えてゆく。 「……やっぱり、シャーク変わったよなぁ」 「そりゃ餓鬼だった頃と比べたら変わるだろ」 「いや、なんていうか……そうじゃないんだよなー」 遊馬は急にそう言い出し、腕を組んで一人で考え出した。酔っているのか、顔は真っ赤で、体も安定せずに左へ右へとふらついていた。 そういえばこいつは変わったようで変わっていないな、と凌牙は遊馬を見ながら思った。 心身共に青年期を隔てて大人へと成長を遂げのだろうが、あの笑顔であったり、周りの人を巻き込んで明るくしてしまうようなところであったり、変わらずに輝き続けているものもある。 他に自分の腕の中にいた頃と変わっていないところはあるのだろうか。 そう思っている間に、凌牙は遊馬の隣へと座っていた。流石に遊馬もそれに気づいたようだが、酔っているためその行動を不審に思うことはなかった。 「どうしたシャークー?顔真っ赤だぜぇー?」 「お前だって人のこと言えるかよ。思いっきり酔ってんじゃねーか」 遊馬は昔のように笑い、凌牙は昔のように不機嫌な顔をして互いに顔を近づけた。 視線がカチリと重なり、どちらからともなくその口は重なった。触れただけのキスでは止まらず、手は相手の背中に、後頭部に周り、キスは激しさを増してゆく。 口を離した頃にはお互いに息があがっていたが、腕はお互いを離そうとはしていなかった。 「はっ……キスは、上手くなったんだな…はぁっ……」 「なんだよ……、知らない、間に…はぁ……変わってて、嫉妬か?……はっ、」 余裕の笑みを浮かべた遊馬は、昔とは変わっていた。こういう顔も出来たのかと、凌牙は自分の知らない遊馬のほうが多いのではないかと一瞬淋しさを覚えた。 「なあ、ちょっとだけ俺達が子供だった頃に戻らねぇ?」 こういった遠回しな誘い方だけは変わっていないんだなと、凌牙はふっと笑った。 12/12/13 main top |