※兄貴の義務なんですの続編


 十代が俺を避け始めたのは中学生からだった。その理由はなんとなく分かっていた。双子だからか、お互いに何を考えているかなんとなく分かってしまうようだ。
 正直、余計なお世話である。あの時だって、俺には十代がいてくれればそれで良かった。例え周りにどう言われようと気にしなかった。
 俺はそんなに頼りないだろうか。そんなに弱く見えるのだろうか。少なくとも、普通の女子より強いという自信はある。俺はもっと強くならなければならないのだろうか。

「ゆうせーい!」
「……なんだ十代」

 やっぱり俺は問題ない。問題があるのは十代の方だ。
 アテム先輩と友情を深め合ったあの日から、十代は吹っ切れたように学校でも普通に接してきた。普通と言ってもそれは世間一般の普通ではなく、あくまで前と比べてということである。

「今日は変な虫がついてないか!?あーっ!もうなんで俺と遊星はクラスが違うんだよ!双子だってのによぉ!」
「双子だからだろ。それに今日はって……まだ朝のホームルームすら始まってないぞ」
「だだだだだって!アテムさんと登校するのはいいぜ!?恋人なんだからよ!でもアテムさんと別れた後だよ!遊星は美人だから目ぇ離したらすぐ変な奴に捕まる!」

 これが十代の普通だ。どうやら友達にやっと俺達が双子であることを打ち明けたようで、俺と違って顔が広い十代のその言葉は瞬く間に生徒の間で広まった。知らないやつもいるが。
 本当のことを聞いた十代の友達は、素直に受け止める者や、やはり驚いた者もいたそうで、中には何故今まで隠していたのかと不思議そうにしていた者もいたらしい。昔のような事を言う人はいなかった。
 それが十代の重荷をなくしたそうで、急に身軽になった十代はすっかりシスコンと呼ばれる様になってしまった。こんな人にしてしまった事に責任を感じる。

「……あ、万丈目」
「えっ!?やっべノート借りっぱなしだった!俺は逃げる!遊星!学校でも変な奴について行くんじゃねーぞ!」

 本当は万丈目なんて見えていない。十代は何かと万丈目に迷惑をかけている為、追っ払うにはこれが一番良い。





「どう思います、アテム先輩」
「……苦労してるんだな、遊星…」

 アテム先輩は軽く俺の頭をぽんぽんと叩いた。まるで子供を慰めているようである。確かに俺は年下であるが。
 昼ご飯は、屋上でアテム先輩と二人で食べている。前は、十代が学校で俺に関与して来なかった為、気にすることなく二人で過ごせていた。だが……もう何度も言うようであるが、あの日から十代が無駄に俺に関わってくる。朝もそうだが休み時間も昼休みも。何度アテム先輩との時間を邪魔されたことか。

「十代はあれが君への愛情表現なんじゃないのか?」
「冗談じゃありません」
「家族だからな。ずっと一緒にいたからこそ、いつの間にか相手の優しさが見えなくなってしまうものさ」

 あれは十代の優しさの表れなのだろうか。最近の行動や言動を思い出せる限り思い出してみた。

「……やっぱりあれはただのシスコンです」
「でも、そんな十代を嫌いじゃないんだろ?」
「そりゃまあ……一応双子の兄ですし」

 なんだかんだ迷惑だとか色々言っているが、十代のことを嫌いだと思ったことはない。今まで言っていなかったが、実は十代のことは大切だと思っているし、十代を傷つける者がいるとすれば、それは腸が煮えくり返るほどである。
 やはり双子か。俺も結構なブラコンらしい。思わず頬が緩んだ。

「……君は、十代の話となると嬉しそうに話すんだな」
「え?」
「正直妬いてしまうな。今、君の前にいるのは俺なのに」
「……アテム先輩?」
「遊星……」

 そっとアテム先輩の手が俺の頬に添えられた。触れた所から感じる熱に頭が溶けてしまったようだ。指先一つ動かせず、ばっちり合ってしまった目線も反らせない。ゆっくり近づいて来るアテム先輩のせいで、息をすることすら困難になってしまう。ああもう。こんなに焦らされてはなんだか恥ずかしいじゃないか。ぎゅっと目を瞑れば、すぐ近くで可愛いなと囁かれる。もう、心臓がおかしくなったんじゃないかと思うくらいどくどくと激しく鳴っている。
 アテム先輩の前では、女の子らしくない俺でもこんなに狂ってしまうのか。こういうのは普通なのだろうか。キスだとか、全部アテム先輩が初めてなんだ。どうしたらいいのか分からない。

「いくら恋人とはいえ俺はそこまで許しませんよアテムさあああん!!!!!!」

 鉄のドアを蹴り開ける音にびっくりして、アテム先輩も俺も体を離した。いや、それもあるが、嫌と言うほど耳にこびりついてしまった声に、驚いたこともある。
 アテム先輩は屋上の入り口を見て驚いているが、俺はもう空気を壊してくれた人物を見るのも嫌だった。

「アテムさん!もしかして俺が二人の関係を知る前から遊星に手出ししてたんですか!?そうなんですかぁ!?」
「いや、今が初めてになる予定だった」
「アッ、アテム先輩!」
「遊星、さっきは可愛かった」

 さらりと言ったアテム先輩の笑顔に胸を打たれた。この人はどれだけ俺を惚れさせたら気が済むんだ。幸せで胸がつまり、思わずぎゅっとアテム先輩に抱きついてしまった。
 それに声をあげたのはやはり十代で、キャンキャンと犬のように騒ぎだした。その声のせいで、さっき感じた幸せがどこかへ飛んで行ってしまった気がする。

「十代、最低」

 ぽつりと言った言葉は思いのほか大きかったそうで、十代にまでばっちり届いていた。
 十代のシスコンが抜けるのは遠い先になりそうだ。いい加減にしてくれ。




12/12/04

美佳さんからの4000キリリクで「兄貴の義務なんです」の続編でした。
こんな感じで良いんでしょうか!今回はカウンターが5000になる前にあげなければと思って、ちょっと頑張りました。

最近カウンターの回りが激しい事にひそかに喜びを感じております。4000オーバーありがとうございます!しばらくキリリクはお休みとなります。次は目指せ一万ということで、カウンターが一万くらいになったらまた再開できるかなって思ってます。(願望)
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